見出し画像

10月4日天使の日

 見上げると、空に天使がいた。
 もとい、天使の形をした雲があった。天使が2人向き合って飛んでいるようだ。今日はいい日になるなと私はほくそ笑む。
 ところがどうだろう。蓋を開ければそんなことは全くない。

「佐々木さん、こないだの発注、間違っていたよ」

 上司に言われて見ると、訂正を伝えたはずの数字が変わっていなかった。確かに伝えたはずなのにと、けれど自分の確認不足である。
 軽く落ち込んでランチをすれば、カフェでヒールが折れる。慌てて靴の修理屋さんに向かえばカフェにスマホを忘れる。仕事に戻ると、山のような仕事が待っていた。

 私の天使は一体どこに行ったのだ。いや、あれは私の天使ではなかったのだろうか。窓のガラス越しに空を見上げて伸びをする。こっそりあくびも混ぜながらストレッチのようにして腕や背中を伸ばした。体を伸ばせばぐぃんと伸びてくれる、ただそれだけで心地良い。しかし調子に乗って勢いよく腰から上を捻ってみたところ、『ブツッ』と鈍くて太い音を立てて何かが壊れた。切れたのか外れたのかわからないが、それは決して幸せの音ではないことは確か。ブラジャーのホックが壊れたようだ。

「えぇー」

 思わず声が出た。そう言えば今日の下着は、以前壊れそうだったものを手直しして更に何度か使っているものだ。遂に寿命を迎えたのかもしれない。仕方のないことだけれど、今日の私では上手く許容出来ないのだ。

 帰りに下着屋さんに寄って新調しよう。そう決めてトイレに向かい、安全ピンで応急措置を施した。よく見れば随分とくたびれた下着である。何年使っているだろう。良いことがありそう、などと遠く遠くばかり見ていないで、もっと近くの自分を見るべきと言うことか。自分が喜ぶ下着を買って帰ろう。
 そうと決まれば、やることは簡単である。山盛りの仕事に急ピッチで取り掛かった。しばらくすると、私の様子を見て同僚たちが交互に手伝ってくれた。
 
「いつも言わないんだからー。一緒にやるから言ってね」

 同期の片岡さんが言う。そうだ、私はなかなか人に頼れない。でも、片岡さんも他の数人も、言わなくても助けてくれる心の広い仲間なのだ。だったらちゃんと言うべきだ。手伝ってくださいともう少し早くお願いすれば、もしかしてもっと早く終われたかもしれない。

「ありがとうございました!助かりました」

 定時を15分過ぎたところで全て完了した。2時間ほどは残業するかと思っていたので本当に助かった。よくよく礼を伝え、軽くなった肩と足で駅チカの下着屋さんに向かう。

「本日、天使のブラがおすすめです」

 そう言われるまま、されるままに試着をしてみる。同時に、天使とか言っちゃって、などと頭の中ではぼんやりしたまま今日1日を振り返っていた。
 実際、それは天使であった。柔らかな生地、それに締め付けすぎないアンダーとこのふんわりとしたカップは、私の胸を何より大切に包んでくれている。なるほど、確かに。朝の天使はここに降りたのかと私は小さく笑う。

 とりあえず、3セット買いました。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【今日の記念日】
10月3日 天使の日

トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社が自社の主力商品「天使のブラ」が累計1000万枚の販売を記録したのを記念して2000年10月4日に制定。日付けは10と4で天使と読む語呂合わせから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?