2月13日お父さんの日
人生に絶対はない。
そう言ったのは父だった。
よく聞く言葉のような気もするし、その前後のエピソードさえほとんど忘れてしまったので、もしかしたら何か記憶が間違っているかもしれないけれど、それでも私は父から聞いた言葉だと思っている。
よくよく考えてみると、この言葉って様々な面で効力絶大である。絶対はないと言うことは、何においても可能性は残されていると言うことだ。
そしてその言葉は私の中にずっとある。
仕事をしつつも、気づけば30年近く小説家となる夢を目指す私にはこれ以上ない心強い言葉なのだった。筆が止まるといつも思い出す。
私には絶対才能ない。
→絶対はないので、わずかでも才能があるかも知れない。
もういい年だから小説家になんて絶対なれない。
→絶対はないので、なれるかもしれない。いい年なのは本当だけど。
もちろんこれは逆説も可能である。例えば絶対才能がないと言う絶対。絶対ではないので才能があるかもしれない。けれど反面、絶対ではないのでやっぱり才能はないかもしれない。
そう、可能性が残るだけで、その可能性が大きいと言うわけではない。これもまた、絶対ではないけれど。
「絶対A!」
久々に顔を合わせた父はそう言った。絶対と言ったことに地味に驚く。
「これだけ審査員が偏って札をあげているんだから、絶対投票分も同じ結果だよ」
実家でたまたま見ていたテレビのお笑いコンテストの結果発表だった。2チームの最終決戦では7人いる審査員のうち5人が同じA札をあげた。残るは視聴者投票による結果待ちである。視聴者投票は男、女とその他とで3種に分かれており、視聴者は該当ボタンを選んで投票する。つまり、視聴者投票だけで3つの札がある。まぁでも、確かにお笑いのプロが半数以上あげている方に視聴者も流れるだろうとは私も思う。
「そうかなぁ。私はこっち」
そう言って私の娘がリモコンを操作した。間もなくして投票結果が発表され、テレビの中ではどよめきが起こる。
「絶対、ではなかったねぇ。おじいちゃん」
それを見て娘はいたずらに笑う。
結果は視聴者投票3つ全てがBチームに札をあげたのだった。
彼女はにひひ、と笑ってその場を立った。おばあちゃーん、と声が聞こえたので、母とおやつの準備でもするのだろう。
テレビを見ながら父は頭を掻いている。少し照れているのか、なかなかこちらを見ない。
その背中を久々に見て、あぁ、父だなぁと思った。こんなに背中が小さくなったのかと少しだけ切なく感じてしまう。けれど、私は思い出す。そうだった、そうだった。私の父はこうである。
何だか心に響く言葉を教えてくれたけれど、それだって、良く思い出したら『人生に絶対は絶対ない』と言っていた気がする。
「絶対は絶対ないんだよ」
小さく呟くように父が言う。チャンネルを変え、続けてテレビを見ている。
やっぱり人生に絶対はないようだ。だから私は相変わらず小説家を目指す。でも、彼が私の父であることだけは絶対なのだと、その背中にこっそり伝えておいた。
お父さんはお父さんである。
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【今日の記念日】
2月13日 お父さんの日
毎日働いて一家の大黒柱として頑張っているお父さんに、月に1回、感謝の気持ちを表す日をと株式会社ヤクルト本社が制定。「人も地球も健康に」とコーポレートスローガンに掲げる同社の、お父さんが健康にとの願いが込められている。日付は13で「お父(10)さん(3)」の語呂合わせから毎月13日とした。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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