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12月27日寒天発祥の日

「あ、みつ豆」

 フルーツの缶詰と一緒に透明に透き通った小さな正方形たちが盛られた小鉢を見て思わずつぶやく。まだメインの豚の角煮も食べないうちから、私はスプーンでその小さな透明を掬って食べた。


「神田さんは鈍感ですね」

 営業先の雰囲気や空気を読めなかった私のことを、後輩は鈍感だと言った。普段であればそこまで気にもしないのだが、最近少し弱っているので結構ズシッと来てしまったわけだ。

 仕事も思うように器用に出来ない、もっと穏やかに過ごしたいけど日々バタバタと過ぎていく。疲労困憊の毎日だ。少しでも休みたいと思って京都伏見の実家に帰りたかったが、今年はそれも叶わず。少し、泣けそうな今日この頃なのだった。

 フルーツみつ豆はおいしかった。小さな頃に母親がよく作ってくれたことを思い出していた。大きめのステンレスパット全面に寒天を作ってそれを賽の目に切る。小学生高学年になった時に私も切らせてもらったが、弾力があるのにすっと切れるその心地がとても好きだったことを覚えている。寒天そのものが好きだったから、兄弟3人の中で私だけはフルーツよりも寒天の方を多く椀に入れてもらったりした。

 年末年始でみつ豆でも作ろうかな。

「あ、お疲れさまですー」

 件の後輩だ。そこそこ広い社員食堂でなぜ私の目の前に座るのか。

「ここ、失礼しますね。あ、神田さんも和定食ですか」

「ああ、うん。もう食べ終わっちゃうけれど」

 私はそう言って、それまでより少し多い量の一口を放り込んだ。

「あ、このデザートなんでしたっけ。なんか子供の頃食べさせられた気がする」

「みつ豆。フルーツが入っているからフルーツみつ豆だよ」

 私が答えると後輩は思い出したような反応を示し、早速みつ豆を口にした。メインを食べずにみつ豆を。私と一緒ではないか。

「このゼリー、結構私好きなんですよね」

「寒天のこと?」

「ああ、これ寒天なんですね。ゼリーだと思っていた」

 まじまじと正方形の寒天を見つめて後輩は言う。そして再び私に顔を向けた。

「あれ?寒天とゼリーって別物です?」

「うん。原料が違うよ。寒天の原料は海藻、ゼリーはゼラチン。動物性コラーゲンだね」

 そろそろ角煮もご飯もなくなってきた。頃合いを見て立ち上がろう。

「そうなんですね。知らなかった。まあ、でも寒天は滅多に食べないからなぁ」

 そう言うと、今度は残りの寒天を小鉢の端によけ始めた。

「そうかなぁ。最近色んな料理に使えるって流行っていたりするよ。ハンバーグとか餃子の種とかに入れて肉汁を中に閉じこめるとか」

 私はここぞとばかりに自分の知っている中のわずかな寒天情報を伝えてみる。

「糸寒天使ってかさ増しすればダイエットにも良いらしい」

 最後にそう言うと後輩の目が変わる。

「ダイエット?ちょっとそこの部分詳しく教えてくださいよ」

 身を乗り出して聞かれ、若干たじろいでしまう。

「先輩、鈍感とか言ってすみませんでした。流行に敏感なんですね」

 取ってつけたような台詞を言い、後輩避けていた寒天を再び口にした。
 私は少し笑って、やっぱり今度みつ豆作ろうと再び思う。

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【今日の記念日】
12月27日 寒天発祥の日

京都府京都市に事務局を置く「伏見寒天記念碑を建てる会」が制定。京都の伏見が寒天発祥の地であることをアピールし、京都市伏見区御駕籠町近辺に記念碑を建て、啓発活動を行いながら寒天の発祥を祝い後世に伝えていくのが目的。日付は、現在の暦で12月末頃に初めての寒天の元となるところてんが御駕籠町で島津藩に提供されたと資料から推察できることとから12月。伏見=ふしみ(243)を「24+3=27」と見立てて27日。この月と日を組み合わせて記念日としたもの。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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