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5月6日 コロネの日

「スミレはね、ソフトクリームが大好きなのよ」

 満面の笑みで娘が白いクリームのてっぺんをペロリと舐める。

「車に戻ってから食べなさいね」

 私はやんわりと言い、彼女はあまり聞いていないような声で、はぁいと返事をした。そしてまた、てっぺんをペロリと舐めた。

 私は彼女の嬉しそうな顔を見て、ソフトクリームを買うことが出来て良かったと思う。その店は期間限定出店の店らしく、それなりに行列が出来ていた。購入直後、私たちの少しあとで売り切れになったのを知り、軽く胸をなで下ろしたのである。娘はソフトクリームが大好きなのだ。

「あ、ありさんの行列だ!」
 足下のそれを見つけては足を止め。

「あ、パパ!この虫さんなぁに?」
 自分の知らない虫を見つけては足を止め。

「あ、テントウムシさんだね」
 自分の知っている虫を見つけても足を止めるのだった。

「そんなに歩いたり止まったりしていると転んじゃうよ」

 夫が窘めるように言うが、やっぱり娘は聞いていないようである。はぁい、と言いながら目の前の小さな水たまりをジャンプした。

『ベチャッ』

 ジャンプした拍子にスポッと彼女の手からソフトクリームが抜け、そのまま小さな弧を描き、着地した。彼女の真横・・・・・・の地面に。

「あ」

 クリームから地面に落ち、コーンがやや上向きに傾いているソレを見て、彼女はしばし放心状態である。そして数秒して、やっぱり泣き出した。

「スミレのソフトクリーム・・・・・・」

 だから言ったでしょうと言いたいところを我慢して、私は彼女のフォロー、夫はソフトクリームの後かたづけを手早く行った。

 もう一度食べたいと彼女は言うが、すでに売り切れていたのでそれは叶えてあげられそうにない。せめてコンビニのアイスでもと思い、彼女の気が済むまで散歩がてら探すことにした。

「あ、お嬢さん、もしよかったらどうぞ」

 それはニューオープンとそのイベントのお知らせだった。見れば少し先にはかわいらしいパン屋さんがある。

「おいしそうな匂いだね。少し見てみようか」

 少しでも娘の気が変わればと思い提案してみるが、彼女は首を横に振る。

「ソフトクリームがいい!」

「うーん、ソフトクリームはもうないのよ」

 私が何とか説明していると、店員さんが再び声を掛けてくれた。

「ソフトクリームが好きなの?じゃあ、このパンはどうだろう」

 さっきもらったチラシに『オープン記念プレゼント』と記載があり、そこにはコロネのイラストがあった。

「あ、ソフトクリームだ」

 スミレは嬉しそうな声を出す。店員さんは優しく笑い、話し始めた。

「そう、これはね、ソフトクリームのコーンの形に似た『コロネ』って言うパンなんだ」

「ソフトクリームに似ているの?」

 少し迷うように娘が聞くと、店員さんは大きくうなづいた。

「うん、とってもよく似ているんだ。特に『おいしい』ってところがよく似ているよ」

 その満面の笑みの店員さんにつられてか、娘も満面の笑みになる。

「スミレ、『コロネ』食べたい!」

「さあ、どうぞ。コロネはね、パンの奥まで幸せが詰まっています。食べるときっと幸せな気分になるよ」

 とても優しいその笑顔に、私も夫も思わず笑い、3人手をつないで吸い込まれるようにしてパン屋さんに足を踏み入れた。

 あの店員さんのような幸せな笑顔になれるコロネとは、なんてすてきなパンだろう。

 今日はふわふわのクリーム入りソフトクリームで幸せになろう。

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【今日の記念日】
5月6日 コロネの日

パン、和洋菓子などさまざまな食品を製造販売する山崎製パン株式会社が制定。昔から愛され続けている巻き貝のような螺旋状の形が特長の日本発祥の菓子パン「コロネ」。その魅力をさらに多くの人に広めて「コロネ」を食べるきっかけの日としてもらうのが目的。日付は5と6で「コ(5)ロ(6)ネ」の語呂合わせから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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