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11月18日雪見だいふくの日

 私の姉は雪見だいふくが大好きである。

 先月の20歳の誕生日、山のような雪見だいふくをプレゼントにねだるほど好きなのだ。

 ちなみに私は20個のそれを山の形に積み上げて渡した。姉は大層よろこんでくれたが、パッケージごと20個となるとさすがに冷凍庫がパンパンになって母に怒られたので、来年は違う形にする予定。

 来月12月には箱入りの雪見だいふくで毎年恒例のクリスマスツリーを作ってパーティーをすることだろう。

 でも、これも今年で最後かもしれない。

 間もなく来る大学受験で希望の大学に合格したら、私は来年春から県外で一人暮らしとなる。行きたい学部がそこにあり、どうしたってこの家からでは通えないのだ。もちろん時々は帰る予定だが、新幹線の距離ではそんなに頻繁には帰れないだろう。

「寂しくなるね」

 台所から姉が言う。彼女は今日も雪見だいふくを食べるようだ。パッケージを半分開け、1つをピックで刺して私に渡した。

「そうだね」

 ありがとうと言ってそれを受け取る。姉は、以前パッケージに入っていたレアピックを今も好んで使っているため、新たなピックはいつも私がもらう。
 もらったそれを1口かじるとまだアイスが硬い。それを口の中でゆっくり蕩かして食べる。私はこの瞬間が好きだ。

「たまには帰ってきてよね」

 姉はもう一つを皿に置き、じっとそれを見つめる。私と違い、彼女は少し柔らかくなってから食べるのが好きなのだった。

「まだ受かってないから、気が早いよ」

 受からないかもしれないじゃない。思ったけど、言えなかった。
 ここにきて模試の結果が振るわないことで、私は自信を無くしている。頑張っているのに、眠くなる。試験の結果を見て愕然とする夢をよく見る。つまり、合格しないかもしれないと思っているのだ。

 姉はそんな私の気持ちを知っているのかいないのか、にこりと笑った。

「受かった気でいた方がいい。その方が楽しいから勉強も捗る。頑張らなきゃとか、受からないかもとか思っていると毎日不安の方が大きくなって勉強しても身が入らない気がするよ」

 私は既に食べ終え、姉はようやく雪見だいふくを一口食べる。既に柔らかくなったそれを姉が噛むと、くにゃっとだいふくが潰れた。触れれば柔らかそうで、もしかしたらすぐにとろりとアイスが溶け出てしまうかもしれない。見ているだけで妙に気が抜けた。同時に私は息を吐く。

 姉の言うとおりだなと思う。

「頑張っているのは知っている。一緒に暮らしているから分かるよ。だから今くらい、一緒に雪見だいふくを食べる残り少ない時間くらい、こんなふうに気を抜いたらいいよ」

 姉がそう言うので、私はどこか安心する。口の中に残るミルクの風味が気を落ち着かせてくれた。何となく大丈夫だと思うことができたのかも知れない。
 私は冷凍庫を開け。もう一つ雪見だいふくを取り出した。そう言えば、姉が雪見だいふくを食べる時にはいつも私も食べている。私も立派な雪見だいふく好きである。

 パッケージを開けて、姉がいつもそうしてくれるように1つは私、1つは姉に渡した。姉は笑ってそれを受け取ると、再び皿においた。私も今度は皿に置く。

 二人でリラックスをシェア出来るアイスはきっと他にはない。

 
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【今日の記念日】
11月18日 雪見だいふくの日

株式会社ロッテが自社の「雪見だいふく」をPRするために制定。「雪見だいふく」は冷たいアイスをやわらかいおもちで包んだ和菓子感覚の商品で、おもちとアイスの絶妙な食感が人気。1981年の発売以来ロングセラーとなっている。日付は11月で「いい」と、パッケージのふたを開けて縦に見たときに18に見えるために18日としたもの。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。


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