3月16日ミドルの日
「最近なんか髪型が決まらないんだよね」
猫っ毛の彼が困ったような顔で鏡を見てそんなことを言うものだから、私は「今更だぜ!」と思いつつも、そんなことないよと答えておいた。
私は彼の、生まれつきだろう猫っ毛もくせっ毛も好きだし、それを実は未だに気にしている彼がもっと好き。人間、39年も生きてきて急にストレートヘアにはならないのである。
「完全に年を取ったよね」
彼がため息をつきながら私に言い、私は笑って見せた。
「いいじゃん、ミドルダンディーだよ!」
「えー俺まだ39歳だよ」
「ミドルって確か30歳くらいから50歳前半とかじゃなかったっけ」
私がイメージで答えると、彼は自分がその中程の年であることを改めて認識したようで少し苦い顔をした。
「そうね、俺はまもなく40歳ですし、吹き出物も出るし、なかなかやせないし」
「うん、いいじゃない、年相応に味がでるよ」
私が肩を叩くと彼は目を閉じる。
「味とともに脂も出てきますよ」
そうか、そんなに色々気になっていたのか。
夕方になり、彼と買い物をしているときになんとなしに彼の背中を見て思う。確かに昔よりも丸い感じがでている。どことなく猫背気味なのは年齢は関係ないのだろうか。あ、歩く速度ももしかしたら少しゆっくりになっているかもしれない。確かに色々と変わっただろうところはあるのだと分かった。
私はそれでいいと思っているのになぁ。私は彼の猫毛だけでなく、今の少し丸くなってきた肩や後ろ姿、ゆっくりとした歩き方も好きである。そう言えばウインドウショッピングをしていると、彼は時々後ろ手を組んでいるのだが、私はこれが大層お気に入りの彼の姿であったりする。
こんな風に、私は彼の変わってきたところも変わらないところもすべて好きなんだけどなぁ。
彼が徐々にそれらを気にしなくなるならよいけれど、でもきっと彼のことだから気にし続けることだろう。それがいつか自信喪失につながらないといいのだけれど・・・・・・。
「あ」
ドラッグストアをぼんやりと見ていると男性用化粧品のコーナーを通っていた。そこには整髪料だけでなく、肌対策やデオドラント剤など意外に種類豊富に並んでいた。
「こんなのあるんだね」
私がヘアワックスを手に取ると彼は少し興味を示したようだった。
「あ、お試しがあるよ」
「俺はいいよ」
「まぁまぁ」
そう言って、半ば無理矢理彼の髪の毛に少しつけ、ねじるようにして髪の毛をセットしてみる。
「お、結構しっかり立ち上がるよ」
「本当?」
商品棚に設置された小さな丸いミラーに写して確認する。
「・・・・・・これ、買います」
気に入ったのか、気恥ずかしそうに笑ってそっと買い物かごにそれを入れた。
「あ、なんかふんわり言い香りするよ」
私はスン、とにおいをかいでみる。
「でもこれ、無香料だよ」
彼はもう一度ヘアワックスを手に取り確認する。私も見るが確かに無香料だ。
「じゃあ、俺のフェロモンかも」
ニヤリと笑って彼は言い、髪型はばっちり決まっているのだった。
気に入ったヘアワックスが見つかっただけで自信がすぐに回復するところも、私は大好きだけど、とりあえず今日は内緒にしておこう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【今日の記念日】
3月16日 ミドルの日
大阪市に本社を置き、男性用化粧品のトップメーカーとして知られる株式会社マンダムが制定。自社製品の無香料の整髪料「ルシード」のリニューアルを記念して、日本を支えるミドル世代の男性の活き活きとした若々しい生き方を応援する日。日付は3と16で「ミドル」と読む語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?