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10月7日キットカットのオトナの日

 一息つこうと机の中からチョコレートを取り出した。パッケージには甘くて苦いと書いてあり、甘いのか苦いのか、一瞬悩んだ。

 私の今の仕事は、決まったことを忠実に行う事務仕事だ。定時になったら帰る。華やかであるとは言えないけれど、やらなくてはならないことは常にあり、それをこなすと言うある種のやりがいは十分にある。

 でも、と最近私は思う。

 私は以前、日本各地を回って仕事をしていた。週に2、3度の出張は良くあることで、新幹線や飛行機を普通の電車と同じような感覚で利用しているほどだった。そうして向かう客先で、当社商品のアピールをするためのプレゼンを行う。お客様は企業であったり個人であったり様々だが、つまりは初対面の人に向けて表立って話をする仕事である。当時は私にとってその仕事が向いていると思っていた。性に合っているとも。人前に立って嬉々として話すという少し特殊な仕事を好んで行い、多分私はそれを誇りにしていた。

 7年前に結婚し、5年前には出産した。育児をしながらでは仕事復帰をしたとしても、やっぱり出張や遅い時間の帰宅では生活が回らないだろうと考えた。やってみるより先に無理だと思い、育児休暇の後、職場へは復帰と同時に事務職への転向を申し出た。事務職でこつこつと仕事を行い、定時に帰る。そのおかげで私は今、育児と仕事の両立が出来ているのだと思う。会社には感謝ばかりである。

 でも、今の私は以前と同じほどの誇りをもって仕事が出来ているのだろうか。例えば、事務に係る資格を私は殆ど持っていないし、パソコンはある程度出来るが自由に使えているかと言うとそうはならない。その結果、誇りを持てるほどの事務のエキスパートであるかと言われれば、答えはノーだ。だったら勉強して資格でも免許でも取ればいいのだけれど、私はどうしても自分の仕事のその先を見つめることが出来ないでいる。
 それは、他にやりたいことがあるからなのではないかと思い始めた。やりたいことは一つで、やっぱり人の前に出て話をしたいのである。

 プレゼンは、少し癖になる仕事だ。どのようにしたらお客様に伝わるかを自分で考え、考えた内容をどのように表せばそれがお客様の胸に響くのか。身振り手振りが必要であればそれを加え、あなたのために、そう思って言葉を放つ。考えて考えて、それを解き放つ。それはどこか弓を射ることにも似ている。長い緊張と、一瞬の放出と緩和。私にはそれが開放感となって感じられた。爽やかで何とも心地良いのだ。

 以前と同じほど、遠方への出張は出来ないかも知れない。以前と同じほど、遅くまでの業務は出来ないかも知れない。それでもどこかに私に出来ることがあるのではないか、夫にも頼りながらその幅を広げていけるのではないか。その中で、やりたいことはいつしか出来ることになるのではないか。

 私は触れていたチョコレートを口に入れた。噛みしめて、席を立つ。大人は何度だって立ち上がる。甘くもなるし苦くもなる。

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【今日の記念日】
10月7日 キットカットの大人の日

兵庫県神戸市に本社を置き、コーヒーのネスカフェ、チョコレートのキットカットなど、人気の飲料や食品を数多く製造販売するネスレ日本株式会社が制定。「キットカット オトナの甘さ」を販売する同社では、すべてのオトナの前向きな一歩を讃える日にとしている。日付は10と7で「オトナ」と読む語呂合わせから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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