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1月5日ホームセキュリティの日

「では、頼んだぞ、草太」

 父の綾太がそう言って敬礼のポーズをすると、5歳の息子である草太も同じ格好をした。敬礼の手が右手か左手かで少し混乱したらしく、両手で敬礼をすると言う、ウルトラセブンの必殺技のように一瞬なってしまった。

「うむ!パパも頑張ってくれたまえ」

 そう言って鼻息荒くリビングに戻ったのは一昨日のことだった。


 年明け早々、出張仕事が入った綾太は3日の夜から仕事へ向かった。その間の家族や家の安全を草太に任せると言って、彼に任務を命じたのだった。5歳にもなればできることも多くなり、そのせいかできないことでも出来ると思う年頃である。家族を守るという大切な任務を任されて大変な気合いの入りようだった。

 父が外出したのが3日夕方の6時である。残った草太と母の尚と2人で夕食を食べたあと、草太は火の元のチェックをった。風呂に入ったあとには風呂の電気パネルをOFFに。就寝時に戸締まりを確認しなくてはならないからと、なかなか眠ってくれなかった。仕方なしに尚も同じ時間に寝ることにし、最終確認を草太にお願いすることで(もちろんすべて一緒に確認)何とか納得し、眠りについてくれた。 

 草太が眠ったあと、夜中にこっそりと布団を抜けだして尚は綾太に電話をした。あなたのおかげで大変なのよと、少し笑ってその夜の報告をする。綾太はそれを聞き、自分の息子ながら誇らしいとやはり嬉しく思い、親ばかだなぁと2人して笑った。

 昨日も草太のホームセキュリティに対する意識は高かった。尚が戸の角に膝をぶつけて痛いと小声でも出したならば、大急ぎで駆け寄り応急処置を施した(水とティッシュで。しかも出血はない)。外を歩くにも一事が万事尚は守られていた。自分が数歩先を歩き、安全を確認してから尚を歩かせると言う徹底っぷりだ。最初の内は尚もそのノリを合わせて、草太が危ないと言えば隠れたり、行く道も遠回りしてみたりと楽しんでいたものの、それがずっととなるとやはりくたびれ始めた。

 少々疲れた尚は、草太を公園で遊ばせることにし、お互いを解放し合った。ベンチに座っているから大丈夫と言って、彼だけを幼児用アスレチックに行かせる。近い距離のベンチに座って、何かあればすぐに駆けつけようと尚は草太から目を離さずにいた。だがそれは尚だけの話ではなく、はじめの15分ほどは草太が何度も尚を確認するので目が合っては手を振っていた。しばらくするとそれも落ち着き、ようやっと久々の公園遊びを楽しんでくれた。

 正義感が強い子だなと感心すると同時に、それだけ家族を大切に思ってくれているのだと、尚は内心で喜んでいた。

 途中の休憩を挟みながら2時間ほど経っただろうか。そろそろ綾太も帰宅する時間が近づいている。どこかすっきりとした顔の草太を連れて家路を急いだ。

「悪者、出なかったね。出たら僕がやっつけるのに」

 得意げな顔でそう言って、えいえい!とどこかの何かをやっつける素振りを見せてくれた。尚も微笑ましく思い、そのときはお願いねと笑う。あっという間の帰路も安全に終わった。

 と、鍵を開けているとき、玄関足下の植木鉢が倒れて割れてしまっていることに気づく。

「な、なんで」

 草太は驚き、急に顔を強ばらせてあたりを見回した。怪しそうな人影はなく、よくよく遠くまで眺めてもなにも見つからない。家に入ろうと尚が促すも、犯人はこの周りにいるかもしれないからと再びきた道を戻ろうとする。

「僕が守るんだ」

 小さくか細い声で草太は何度もつぶやいていた。もう帰ろうと尚が再びその手を取ったその時だった。

「ニャー」

 真っ白な毛の猫が家に向かって歩いている。その口元には茶色い土汚れ。尚はもしかしてと思い、猫が現れたすぐそこを確認した。わずかに陰になるところであり、猫が寝場所にするにはうってつけの場所。そこには植木鉢に植えていたパンジーの花、それと作り物のねこじゃらしがあった。

「草太!にゃんこが割っちゃっただけだよ。事件でもなんでもないよ」

 尚がそう言って家の前に立つ草太に報告をすると、大きな声で泣き出した。

「よ、良かったぁ。悪者が来てお家の中に入っちゃったかと思ったよぉ」

 張りつめていたのだろう緊張が解けたのか5歳の子供らしい顔で泣きじゃくる。家の中に不審者が入ったかもしれないと思って、かたくなに入ろうとしなかったのかと尚は納得する。

「おうちに悪者はいないよ」

 そう言って頭を撫でたあと二人は家に入ろうと扉に手をかけた。鍵を開け忘れたと思ったが、思わずノブを回すと、かちゃりとドアが開く。それも引いていないのに開いたのだ。

「おかえり」

 綾太だった。尚も草太も思いがけない登場に驚き、草太は泣きながら笑った。もしかしたらその手や肩は少し震えていたかもしれない。家族を守らなくてはならないと言う使命感と正義感に少しだけ圧倒されていたのかもしれない。けれどそれでも、草太は頑張って守ってくれたのだ。それは言わずとも尚にももちろん綾太にも伝わっていることだった。

「パパー!!僕頑張ったんだよ」

 そう言って綾太に飛びついた草太はすでに涙を流していなかった。けれど、少しだけ甘えたくなったのかもしれない。

「うんうん、ママからちゃんと聞いているよ。ありがとう。草太はとっても頼りになる男だ!」

 草太の顔は泣きあとにほんの少し微笑んでいた。それは立派に家を守った誇らしげな顔だった。

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【今日の記念日】
1月5日 ホームセキュリティの日

日本で初めての警備保障会社として1962年(昭和37年)に創業し、日本に「安全産業」を創出したセコム株式会社が制定。同社が1981年(昭和56年)1月5日に発売した「ホームセキュリティシステム」は2014年(平成26年)6月に契約数が100万軒を突破。「ホームセキュリティ」は一般的な用語として定着している。この記念すべき日を通して、家庭の「安全・安心」を見直してもらうのが目的。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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