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映画「ワタシタチハニンゲンダ!」上映会に参加して。日本の移民問題のまとめ。

こんにちは。あんなです。
先日、日弁連さまが主催されていた「ワタシタチハニンゲンダ!」の上映会に参加してきました。

上映後には、髙賛侑監督と指宿昭一弁護士との対談もあり、とても有意義な時間を過ごさせていただきました。素敵な会をオーガナイズしてくださった日弁連の皆様、ありがとうございました。

今回のnoteでは、上映会を振り返り、改めて日本の入管・難民問題について考えてみたいと思います。

「ワタシタチハニンゲンダ!」映画概要

2021年3月、スリランカ人女性ウィシュマさんが名古屋入管で死亡した。彼女の死は公権力による外国人差別を象徴する事件である。戦後、政府は在日韓国人・朝鮮人を抑圧する外国人登録法などを制定。後年、技能実習生や難民が増加すると全ての外国人に対する管理を強化してきた。恐るべき在日外国人差別政策の歴史を描き出した初の長編ドキュメンタリー。
髙賛侑監督は3年前、朝鮮学校差別をテーマとする「アイたちの学校」(99分)を制作したのに続き、全外国人に対する差別政策の全貌を浮き彫りにする。人権を奪われた人々は訴える。「私達は動物ではない。人間だ!」。

『ワタシタチハニンゲンダ!』チラシより。

映画を見て

114分で、戦後から今に至るまで、いかにして外国人に対して差別的な政策が作られてきたかが縦の線で追える本作は、見甲斐があり大変勉強になりました。

オールドカマーとニューカマーの構造

朝鮮半島を植民地化し、朝鮮の人々に一度は日本国籍を与え日本兵として戦争に参加させるものの、同じ「日本国籍保持者」でありながら外国人登録令(1947年)で徹底的に管理をし、結局はサンフランシスコ平和条約を機に日本国籍を剥奪した日本。その後冷戦が勃発し、朝鮮半島では朝鮮戦争が始まる。GHQの方針もあり、日本に残るしか選択が無い朝鮮人が多く、「在日コリアン」の始まりとなりました。そして在日コリアンが、日本の移民政策でいう「オールドカマー」になります。

その後も制度的に在日コリアンを苦しめ続けた、戦後の差別的な政策が、今の入管法・難民法の母体になっています。戦後の朝鮮人差別を制度的に肯定するための政策がそのままニューカマーに対する差別的な政策になっているということです。

つまりこれは、戦後何十年ものあいだ、差別を野放しにした結果です。

「ニューカマー」とは、広く戦後以降日本にやってきた移民の方々を指す言葉です。オールドカマーとのコントラストが顕著にできたのはベトナム戦争中、いわゆる「ボートピープル」と呼ばれる人たちが日本に難民としてやってきた頃です。

その後も、バブル期の日本は積極的に「日系人」受け入れをし、労働者不足を補いました。この頃、長野オリンピック(1998)があったこともそれを助長しました。

技能実習制度

1960年代、「国際貢献」であるという名目の元、労働法の適応外である「研修制度」が開始。外国人に「ノウハウを共有する」ことで貢献をするんだというのは表向きのファサードで、実際は低単価での労働力でしかありませんでした。それをもとに、1993年、悪名高き技能実習制度が始まります。

そもそも日本に来るまでにブローカー相手に多額の借金をした状態で来日している技能実習生は少なくありません。ビザの関係から転職が許されないため、どんなに悪い労働環境であろうと辞めることはできません。やめてしまえば、強制的帰国することになります。家族滞在が認められていないため、とても孤独です。パワハラ、セクハラが横行し、非人道的な環境が耐えきれない人も少なくありません。しかし、ブローカーの借金を返済しなければ母国の家族に迷惑がかかってしまう。そんな彼らを待つのはさらに危険な違法労働です。

辛い労働環境に耐え働き続けるも、技能実習生は最大で5年しか日本の滞在が許されていません。その間日本に愛着が湧き住みたいと思っても、別のビザを取得するのは難しいです。

日本で永住権を取得するためには「10年以上日本に在留し、かつ、就労資格・居住資格をもって5年以上在留していること」が条件とされていますが、なんとこの10年に「技能実習」と「特定技能1号」での就労期間は含まれないのです。5年間、働かせるだけ働かせて、何がなんでも帰らせることを目的としています。

2017年、技能実習生に対する度重なる労働法違反を受け、「外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律」(以下「技能実習法」)が創設されました。

「(労働法)違反内容をみると、「労働時間」が最も多く(26.2%)、続いて「安全基準」が19.7%、「割増賃金の支払」が15.8%などとなっている。」

現代の理論より

しかし、髙賛侑監督のお言葉をお借りすると「根本的におかしい制度を"きちんと運営"しても問題は変わらない」です。そもそもこの改正は2020東京五輪が念頭にあり、動機も不純であることが見て取れます。大きな改正点は、監理団体が許可制になったことです。しかし、認定の基準は厳しくなく、管理団体の数は年々急増しています。

→弁護士.com 「外国人技能実習制度」“問題化”の元凶は?「報道されない」現場の切実な声

改正後も、悪質な民間仲介業者の排除には至っておらず、借金を背負った状態で低賃金労働が貸されてしまうと言う問題は未だ健在。加え、転職の自由も担保されておらず、現場の権力の濫用が可能となってしまうことも改善されていない。入管法とも相まって、強制送還も可能です。彼らが人質にとられているという状態が変わっていません。

2019年より、「深刻な人で不足を改善」するために特定技能制度が設立されました。特定技能には1号と2号があり、前者は「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向け」、後者は「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向け」とされています。従来の在留制度では受け入れられる外国人労働者が限られていましたが、特定技能の在留資格では特に人手不足が顕著である介護や建設など14の分野で外国人の受け入れが可能となり、労働力確保のための制度です。(日経ビジネス:特定技能制度とは?

特定技能支援サイトより、特定技能の分野

同制度は、人手不足の12 (14) 分野で労働者を受け入れている。同じ業種なら転職も可能で、最長5年間の在留を認める「1号」と、家族の帯同や在留資格の更新ができ、永住にも道を開く「2号」とがある。技能実習を終えた後、同制度を活用して日本に残って働くことも可能である。

特定技能制度が導入された時点で既に、多くの問題を抱える技能実習制度から外国人人材を特定技能制度に吸収させていくことは想定されていた。ただし、実際にはあまり進んでいない。2022年6月時点で、特定技能は9万人程度と、実習生約32万8,000人の4分の1程度にとどまっているのである。

Nomura Research Instituteより

ここまで書いてきてもお分かりのとおり、これらのスキームはそもそも日本国内で労働力が足りないという根本的な問題にあり、外から労働力を入れないと維持ができない、成り立たない、日本に「来ていただく」ことが目的です。こちら側が彼らを必要としているにも関わらず、相変わらずの上目線。「嫌なら帰れば良い」などと言う。制度の根底に多くの問題があるのにも関わらず、そこにさらに上塗りで新たな制度を重ねていくことにより、根本にある人権問題、労働問題が解決されずに、「日本人にとって都合が良い」外国人労働力の搾取の構造が全く改善されません。

どんどんと更新する円安に加えて、他国での労働力の需要も相まって、このような労働環境を放置した状態の日本を労働先として選んでくれる方は今後減っていく一方でしょう。

そもそも外国人労働者を搾取ができる労働力としてしか見ておらず、日本にくる彼らのクオリティオブライフに関してはノータッチなのが、これらの制度を見てもよくわかります。

外国籍・非日本語話者への日本語教育

問題は技能実習制度に限られません。外国人に対するその他の制度も、彼らの保護を十分に担保していません。

例えば、外国籍の子どもは義務教育の対象外(就学義務を負っていない)とされています。
「不就学学齢児童生徒調査」では明確に「外国人は、(調査の)対象から除外する」と書かれています。そもそも外国籍の子どもの未就学の状態が捜査としてもされていないということになります。義務教育を定める憲法26条は以下の通りです。

第26条 1 すべての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべての国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

「国民」ではない外国人は、この条文から除外されます。
では外国籍だと学校に通えないか、というとそんなことはありません。国際人権規範に基づき、希望する外国籍の子どもは無償で教育を受けることができます。しかし、自ら志願しなければ教育を受けることができません。

「外国人の子どもたちは、希望すれば入学はできますが、でもそれはある種恩恵的な扱いとして入学できているだけです。 彼ら・彼女たちは日本語がわからなくなって勉強についていけなかったり、自分に自信がもてなくなったりして、学校を辞めてしまう子もいます。 その安全装置として外国人学校がありますが、どうしても授業料が高くて支払えず学校に行けないケースもあります。経済的に苦しい親を少しでも助けたいという思いから、働いてしまう子どもたちもいるんです。 働かないまでも弟や妹の面倒をみる家事労働をしている子どももいます。そういう子どもたちも、ある意味労働を強いられてしまっているといえるんです」

愛知淑徳大学 小島祥美准教授 (NHK特集『外国人は「対象外」ってどういうこと?』より

例えば私が育ったアメリカでは、子どもの国籍やビザの状態を問わず(オーバーステイであっても)未成年の子どもは無償の教育を受ける権利が担保されています。

"All children in the United States are entitled to a basic public elementary and secondary education regardless of their actual or perceived race, color, national origin, citizenship, immigration status, or the status of their parents/guardians. School districts that either prohibit or discourage, or maintain policies that have the effect of prohibiting or discouraging, children from enrolling in schools because they or their parents/guardians are not U.S. citizens or are undocumented may be in violation of Federal law."

US Department of Education

国籍や移民のステータスを問わず、子どもを学校に送らないのはネグレクトの一種とされ、罰金などの刑事罰の対象です。(カリフォルニア州の場合は$1000の罰金など。) 日本でも学校教育法91条で「保護者の就学義務不履行の処罰」について、義務履行の督促を受けても履行しない者は10万円以下の罰金が課されるとありますが、これも「日本国籍」の子どもに限定されています。

言語の観点から見ても違いは明確です。2001年の初等中等教育改正法 (No Child Left Behind Act)により、アメリカではESL (English as Second Language)という英語を外国語として学ぶ子たちのためのクラスを公立学校に用意することを義務としています。現在500万人近くの子どもたちがアメリカでESLのコースに加入されているそうです。

日本ではこのような規定はなく、全国で統一されたカリキュラムは存在しません。ほとんどの学校では外国ルーツを持つ子の日本語サポートは無く、各自治体やNPOに任されています。文科省による【平成28年度国内の日本語教育の概要】によると、なんと日本語教師の訳6割はボランティアとなっており、これまでどれだけこの問題が民間・NPOに投げられていたかが見受けられます。

言語の壁を理由に不登校になる子も少なくなく、その場合は上記のように、「自主性」を必要とする日本の法律では、彼らを学校に留めさせる手段は無いのです。

このような状況の中、2020年に日本語教育推進法ができました。この法律では、国内の非日本語話者だけでなく、在外邦人の日本語教育についても言及されているのが特徴です。もちろん、何もできないよりも良いのですが、同法は理念法です。つまり、法的整備と政策の推進を同時に行う必要があります。アメリカのように各学校に日本語のクラスを設けなければならない、というような規定はありません。

本法は日本語教育を国・地方公共団体・事業主に任せるということを明確化しており、その点は評価できますが、日本語教育者のほとんどをボランティアに頼っている現状の中、今後どのように改善されていくか、私にはよく見えない、というのが正直な気持ちです。ですが、これまで各自治体が各々やっていた日本語教育のカリキュラムを統一化するのは良いことなのではないかと思います。

加えて、「難民」という項目を作ったのは評価できるのですが、同法に「移民」の記載がありません。

「推進法には移民が含 まれていない。それは、「総合的対応策」も同じである。政府・与党が移民導入を認めていない以上、「総合的対応策」はもちろん、いくら超党派で成立させた推進法といっても致し方ない点ではある。しかしながら、少子高齢化・労働者不足が不可逆的 により一層進行する今後の流れから考えると、今のうちに視野に入れておかなければ ならないのではあるまいか。」

『「日本語教育推進法」について』 同志社女子大学 丸山 敬介

そもそも同法の設立には、東京福祉大の留学生1600名所在不明事件が影響しています。現在、日本では学生ビザ保持者は「週28時間以内」のアルバイトが可能です。しかし、上記の通り現在外国人の雇用においてはオーバーワークが最も深刻な問題となっています。とりあえず学生ビザを取らせて、働かせる、という悪徳な団体もあるのです。それを考えると、東京福祉大学が起こした事件の深刻さがわかります。

現在の日本の状態では、外国籍の子どもたち、日本語を母語としない子どもたちに対するセーフティーネットが足りません。新法ですので今後の動きを見守る必要がありますが、同法で十分であるとは全く言い難いです。

民族教育の権利

国連は、「民族的または種族的、宗教的および言語的少数者に属する人々の権利に関する宣言」にて、「少数者は自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰し、かつ実践し、自己の言語を使用し、かつ自国も含め、いかなる国からも出国し、かつ自国へ帰国する権利を有する」と宣言しています。これにとどまらず、国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に対する国際規約)では、「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない」と規定されており、それ以外にも子どもの権利に関する条約あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約でも「民族教育へのアクセスの権利」が明記されています。

しかしこの権利が日本では守られているとは言えません。この顕著な例が朝鮮学校高校・幼稚園無償化除外です。

まず幼稚園無償化について。政府は、「すべての子どもが健やかに成長するように支援するもの」という基本理念を追加し、「子ども・子育て支援法」を2019年に改定しましたこれにより、2019年10月から幼児教育・保育の無償化が開始。幼稚園や保育園のほか、条件を満たした認可外保育施設、ベビーシッターや一時預かりも無償化の対象となりましたが、ここから除外されたのが朝鮮幼稚園です。

無償化が認定されたのは全国55,000施設ですが、除外された各種学校幼稚園の数は88校のみで全体の0.16%です(長野県平和人権環境労働組合会議より)。明確に、朝鮮幼稚園をターゲットとしていることが読み取れる数字です。つまり、基本理念である「すべての子どもが健やかに成長するように支援するもの」と矛盾しているということになります。

無償の幼稚園に子を送ればいいじゃないか、という発言も見られます。しかし、映画内でもあるように、差別は容赦がなく、ほとんどの人が無意識的に行います。幼稚園の時点で、クラスメイトの親などから心ない扱いを受けたり、自分のバックグラウンドについて質問をされる。朝鮮幼稚園は彼らにとって健康なアイデンティティを形成する場でもあり、差別から子を守る空間でもあるのです。つまり、「健やかに成長」するためには必要な環境なのです。

高校無償化について。高校無償化の検討会議が始まった頃、当初は外国人学校にも適用される方針で、認定条件は年間の授業時間などに留まり、教育の中身は含まれていませんでした。(アジア女性資料センター発行『女たちの21世紀』2017年12月号)国会の審議でも、無償化の認定は外交上の関係が考慮されるものではないという見解が共有されており、検討当初は朝鮮学校を除外する意思がなかったことがわかります。

しかし第二次安倍政権が発足後、その見解はひっくり返され、「拉致問題の進展がないこと」を理由に無償化から除外されてしまいます。学校に通う子どもたちからしたら何の関係もないことです。
参考:共に埼玉「他社と共存する豊かさを求めて」

またも、朝鮮学校がターゲットとされていることがわかります。

余談ですが、2022年ロシアのウクライナ侵攻を受けて、今年JR恵比寿駅でロシア語の案内が紙で隠される、という一件がありました。朝日新聞によると、その理由として「ロシアによるウクライナ侵攻を受け、利用客からロシア語の表記を疑問視する意見が相次いだため」と答えがあったそうです。このnoteを読んでくださっている方は、この一件がどれだけ愚かなことかお分かりだと思います。

ロシアと隣国である日本。日本にはロシアルーツを持つ方が多く住んでいます。彼らと、ロシア政府のウクライナ侵攻は全く関係がありません。ロシア政府の動向と、ロシア語話者がロシア語の案内などを必要としていることは、何ら関連性がないことです。(そもそもロシア語表記があったのは、ロシア大使館に向かう人たちからの問い合わせが多かったからだそうで、その必要性がわかります。)それなのにも関わらず、JR恵比寿駅は一部利用者の指摘(ヘイト)をもって、ロシア語表記を隠しました。批判を受け、恵比寿駅はその後紙を剥がしました。

「ロシア語の案内をなくすことは結果的に差別にあたり、消極的なヘイト行動に該当する。侵攻が始まってから、『ロシアに関係することはたたいていい』という同調圧力が強まり、企業もそれに過剰に反応してしまっている。日本に住むロシア人を差別しても戦争を止めることにはつながらないという理解を広げる必要がある」

NPO法人「ワールド・オープン・ハート」代表 阿部恭子さん (朝日新聞より)

この一件と、朝鮮学校無償化除外は同じ方程式に当てはまります。
朝鮮学校の学生や教員と、朝鮮民主主義人民共和国(以下DPRK)と日本の外交は別ものです。DPRKと日本との間に何があろうと、在日コリアンコミュニテイの中で朝鮮学校が必要であることは変わりありません。朝鮮学校はDPRKに対してアクションを求める機関ではなく、そこに通う子どもたちはさらに外交とは無関係です。

実際に朝鮮学校に通う生徒や教師が日本とDPRKの外交についてどう思っているか、というのも、無償化において無関係です。日本では思想・良心の自由(憲法第19条)で約束されており、政治的思想によって国からの保護が変わる、ということは許されないからです。

「オールドカマー」である在日コリアンの方々の民族教育の権利が認められていない現状、今後様々なバックグラウンドを持つ外国ルーツの方が増えても、同じようなヘイトが起こることは想像できます。中にはこのような対応が在日コリアンだけに向けられているだろうと考える人もいるでしょうが、JR恵比寿駅ロシア語案内除外の一件からも見れるように、マイノリティの権利に関する教育が充分に行われていない日本では、類似したケースがどのマイノリティであっても起こることでしょう。

難民認定 (2023年6月改正入管難民法について)

世界情勢が日々変わる中、難民の数も増加しています。
日本は中でも特に難民認定率が低い国です。なんと、申請に対してたったの0.4%しか難民認定されません。

これまでも日本の入管法に関しては多くの問題が指摘されてきましたが、入管難民法改正案が6月8日の参院法務委員会で可決されてしまいました。本改正の最も大きな問題点は、3回目の難民申請以降は、難民認定すべき相当の理由がないとされれば強制送還できるようになる、という点です。

これまでの難民認定率の低さからも、今後強制送還される人の数が増えることが予想されます。国連は迫害を受けるおそれのある領域の国境への追放や送還を禁じるノン・ルフールマン原則(難民条約第33条等)を掲げています。新規定は、この原則に反し、最悪の場合当事者の死に積極的に関与する可能性があるのです。日本の難民制度はこれまでに国連から何度も勧告を受けており、今回の改正はそれを改善するどころか、悪化させるものです。

現在、日本人の配偶者や子どもがいても難民認定がされないばかりか、在留特別許可もおりないという方が多くいらっしゃいます。中には既に3回難民申請をした人も。この法律の制定により、今後このような家族が離散することも考えられるのです。

加えて、本改正は難民・移民家庭で、日本で生まれ育った子どもたちに対する言及はされておらず、出生地主義をとっている日本では、日本にしか住んだことがない子どもたちでさえも強制送還の対象となってしまいます。子どもたちの在留が認められたとしても、親のみが強制送還される、という、ここでも家族離散の問題が懸念されます。このようなことが起これば、子どもの権利条約9条1項「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」に反することになります。

ここで思い起こされるのが、カルデロン一家事件です。

カルデロン一家事件(2009年):
フィリピン国籍の両親を持つカルデロン一家。両親が非正規在来者であったため、国はカルデロン一家に退去強制処分を科す。しかし娘である当時中学1年生カルデロン・ノリコさんは、日本生まれ日本育ちであり、フィリピン国籍保持者であれど、フィリピンに行ったことがなく、タガログ語も話せない状態であった。カルデロン・ノリコさんと両親が家族全員の在留特別許可を求めていた問題で、東京入国管理局は、両親が自主帰国を表明しないときは子どもも含めて全員を強制送還する、と迫り、両親が自主帰国を表明したことを受けて、ノリコさんだけに在留特別許可を付与した。

参考:東京弁護士会 カルデロン・ノリコさん一家の在留問題に関する会長声明

日本国はすでに、家族離散という非常な決定を下す前例を持っており、今後それが増えることは大きな不安要素の一つです。

そして入管法の最も大きな問題点と言っても過言ではないのが、長期収容:その収容に関する規定です。収容は人身の自由を奪う行為ですから、通常であれば令状(刑事事件の場合)などを要する、非常に権利の侵害度が高い行為です。しかし、入管ではこのような規定はなく、入管の判断で身柄を拘束することができます。

一度収容されると、いつ出られるかわからない。収容期間に上限はありません。もはや「無期懲役」状態です。仮放免の申請をしても、通るかわからない。結局、自主的に「国に帰る」と言うまで収容する。または仮放免が認められてもいつまた長期収容されるかわからないという不安定な状態に落とし込む、というような形です。送還を目的とする収容であれば、飛行機や船の手配の時間に止まるため、何週間、何ヶ月、何年の収容はこれに当たらないはずです。

アムネスティー・インターナショナルは、入管法の改正内容について以下のような問題点を挙げています。

・命や自由が脅かされかねない国への追放や送還を禁止する国際習慣法「ノンルフールマン原則」に反し、深刻な人権侵害を受けるおそれのある国への難民の強制送還が可能になる
・難民申請中など、在留資格を持たない人に送還を強制し、従わないと刑事罰を与える命令制度の新設
・収容に関する決定に司法審査が導入されず、行政機関である入管庁の裁量が大きいまま
・収容期限の上限が定められず、無期限収容が可能なまま
・収容に代わる措置として導入される「監理措置制度」は対象者の自由が保障されておらず、また、あいまいな要件での再収容を行政判断で可能としている

アムネスティー・インターナショナル

参考:東京新聞 日本人と結婚しても在留資格与えられず
参考:東京新聞 疑念だらけなのに議論打ち切り入管難民法改正案の残された問題とは
参考:広島弁護士会 ノン・ルフールマン原則等に反する入管法改正案に反対し国際基準に沿った出入国管理・難民保護制度の確立を求める会長声明


深刻な人材不足は改善したい。そのアンサーとして外国人労働力を導入するも、数年間過酷な労働を強いて搾取した後は定住させずに返す前提であり、もしそのルールに従わない場合は家族離散を起こしてでも強制送還させる。命の危険があれど、難民の認定はほとんど行わず、長期収容の問題を改善しないばかりか、難民申請回数を減らして、死のうが何だろうが強制送還させる。

在留資格が認められ、日本に滞在できたとしても、教育への権利は保証されず、日本語も学べないかもしれない。日本での教育が保障されないのなら民族教育を受けようと思っても、それも保障されない。

それが今の日本の状態です。

まさに「人間扱い」をされていない。
「ワタシタチハニンゲンダ!」と叫ばざるを得ない状態なのです。

人の国籍によって命を軽視させることを許してしまえば、その相手がいつ自分になってもおかしくありません。政府による命の軽視を許すということは、ゆくゆくは自分の命が軽視されることにつながるのです。これは、日本国籍保持者にとっても、極めて自分ごとです。

ナチスが共産主義者を連れさったとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから。
彼らが社会民主主義者を牢獄に入れたとき、私は声をあげなかった。社会民主主義者ではなかったから。
彼らが労働組合員らを連れさったとき、私は声をあげなかった。労働組合員ではなかったから。
彼らが私を連れさったとき、私のために声をあげる者は誰一人残っていなかった。

マルティン・ニーメラー

髙賛侑監督と指宿昭一弁護士の対談

朝鮮民族に対する差別を国として行っているのは日本だけ。

上映後、指宿弁護士と髙監督の対談(指宿弁護士による髙監督へのインタビュー)が行われました。

映画製作を受けて、多くの国々を訪問しリサーチをした髙賛侑監督。朝鮮戦争の末、多くのコリアンルーツの方々が世界各国に移住し、コリアンルーツを持つ人々の移民の動きは今も続いているも、「国を挙げて在国コリアンに対する差別的な政策を打っているのは日本のみだった。」と髙監督は仰っていました。まさに、システミック・レイシズムです。

注意:個人からの差別とシステミック・レイシズムは違います。個々人間の差別は世界中にあり、各国のコリアン・コミュニティはそれを経験していることでしょう。

システミックレイシズムに関しても、例えば私が育ったアメリカでは今でもアジア人に対する差別が横行しており、これにはもちろんコリアンルーツの人々も含まれます。しかし、「アジア人に対する差別」という言葉からもわかるように、具体的にコリアンルーツの人たちをターゲットにしているものではありません。(むしろ、アジア人を一括りにし、その違いを認識しないというのもアジアン・ヘイトの特徴。)アメリカのアジアンヘイトの対象には、コリアンルーツを持つ人も、私のようにジャパニーズルーツを持つ人も含まれます。

映像の力:1日も早くこの映画を作らなければならなかった。

そもそも難民認定率の低さなどは、世界情勢に対する無知によるものではないか?と指摘する髙監督。今年で言えばロシアのウクライナ侵攻によるウクライナ難民。その他でも、シリア内戦やイェメン紛争の被害者。ヴェネズエラの政情不安によるギャング紛争の増加、食糧不足。南スーダンの内戦。世界中では日々多くの人たちが命の危険にさらされています。

しかし、一件そのような問題が遠いところの他人事に見えてしまう日本では、難民制度の重要性について無関心且つ無知である人が多い。そもそもそれらの紛争が起こっていることすら知らない人もいるでしょう。この無理解は近年少しずつ認識され始めたLGBTQ+当事者の難民問題にもつながります。

そんな中、髙監督は映像の力を改めて認識されたそうです。
(以下、髙監督のコメント。あんなのノートより。)

  • SNSを通じて、リアルタイムの映像が見れるようになり、差別が可視化され、BLM運動などにつながった。その意味では映像の力に希望を見出せる。しかし力があるからこそ、注意を払わなければならない。

  • 日本国内でも、少しずつ外国人に対する差別への興味が湧いてきていると感じる。

  • ロシアがAIなどを利用して、それを悪用しようとしている。リアルタイムで拡散できてしまうからこそ、チェックが難しくなっている。デマだと認定される頃には拡散されてしまっている。オーセンティックな映像の判別が難しい時代になったことに対する懸念。

  • オーセンティックな映像かどうか、自分が面している情報が正しいかどうか、ファクトチェックができるリテラシーが日本国内で育てられているのかは疑問。

  • 映像の力が強いことを国は知っている。だからこそ、ウィシュマさんの動画を一般公開したがらない。

  • 基本的に、差別されている様子を映像で撮ることは非常に困難である。

映画を政策することへの想い

髙監督は「映画を撮る上で一番の困難は?」という質問に対して、「涙を流さずに撮ることができなかった。」と答えていました。しかし、「(難民の)問題があると知った以上、引き下がるわけにはいかなかった。」と仰っていました。

日本では、オールドカマー(在日コリアン)とニューカマーとの間に繋がりが薄く、問題を共有しているのにも関わらず、お互いの問題に関心を持ち集うという行為が希薄であるとコメント。BLM運動に多くのマイノリティーグループが賛同したように、日本の外国人差別の問題を改善するためには、これらのミクロなグループが集い、大きな群衆にならなければならない、と。

「在日コリアン問題に集う、コリアン以外の在日外国人はほとんどおらず、逆もまた然り。」

ここで、私は以前読んだEmma Daibiriさんの"What White People Can Do Next"という本を思い出しました。本著では、Allyship(アライシップ:同盟、支援)ではなくCoalition-building (コアリション:連立・連帯)をしなければならないと書いてあります。すべてのマイノリティー問題に通ずる点ですが、日本では「支援」に止まる活動が多く、なかなか連立や連帯に至らない、という印象です。

それを変えるべく、髙監督は1日も早くこの映画を作成したかったそうです。

指宿昭一弁護士と。
指宿先生と一緒に。
ありがとうございました。

私たちにできること

6月に入管法の改正が通ってしまいましたが、引き続き日本の入管・移民問題について勉強を続け、アクションを起こしていく必要があります。

放置すれば、このように悪法がどんどんと通ってしまう状態。
外国籍当事者の人権が保障されるために、目を光らせる必要があります。
以下、お問い合わせ先や関連ページをあげていますので、見てみてください。

公開されたウィシュマさんの動画も付け加えますので、まずは見ること、知ることから始めてください。

そして何より、最も効果的なアクションは、「差別を放置しない」ことだと思っています。日本で生活していると、通常の会話でも差別的な発言が散見されます。

「ガイジンって〇〇だよね〜」
「嫌なら日本来なければいい・出てけばいいのに」
「〇〇人って〇〇だから嫌い」

などなど。このような発言が許されないものなのだという認識を広めていくことが、差別を根絶するために最も効果的だと思います。強く否定できなくても、「私はそうは思わないな」「そういうことを言う人とは仲良くできないなあ」「だいぶ古い考えだね」「冗談で言ってるんでしょう?」など、その都度その発言を放置しないことが重要です。

みなさま、目の前に現れた差別を放置せずに、雑草を取るように、少しずつ数を減らしていきましょう。


お問い合わせ先など

本作の自主上映が可能です。通常5万円だそうですが、用途によってはお値段が相談できるそうなので、もしご興味がある方は連絡してみてください。
→映画ウェブサイト
→自主上映 申込ページ

ウィシュマさんが入管の中でどのような被害を受けたのか、その全貌は未だ明らかになっていません。国はひたすらに計6時間ほどの映像の公開を拒んでいます。ウィシュマさんのためにも、このような被害が繰り返されないためにも、国民の知る権利のためにも、当映像が公開されることを求めていく必要があります。
→NHK News 「入管施設収容中に死亡した女性の映像 法廷での上映は結論出ず」

【UPDATE】ウィシュマさんの映像の一部が公開されました。内容に関しては、注意を必要とするものですが、ご覧になれる方はご覧になり、入管の行いについて知ってください。(これも動画の全貌ではないので、引き続き残りの動画の開示を求めます。)
→ウィシュマさん被害動画一部(閲覧注意)

作中でも紹介されている本『ウィシュマさんを知っていますか?』
こちらは入管から眞野明美さんに届いた、ウィシュマさんからのお手紙や絵をまとめた著書です。
英語の先生だったウィシュマさんのチャーミングな文章や絵が特徴的です。
是非お手に取ってみてください。
→KINOKUNIYA『ウィシュマさんを知っていますか?』
→Dialogue for the People: 眞野明美さん取材ページ

デモなどの情報をアムネスティーさんが挙げてくださっています。アクションを起こしたい方は是非チェックしてみてください。
→日本の入管法に関するアクション:アムネスティー・インターナショナル
インスタグラムではリアルタイムで直近のデモの情報を拡散されているので、そちらも要チェックです。
→アムネスティ・ジャパン インスタグラム

髙監督の『アイたちの学校』はAmazon Primeで鑑賞可能です。是非ご覧ください。
→ Amazon Prime 『アイたちの学校』

指宿昭一弁護士ツイッターアカウント
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