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僕のご主人は、天国に1番近いところにいる。

僕の名前はアル。
本当はアルフォンスとかアルフォートとかアルビスとか長い名前が付いていたらしいけど、全部アルがつくから『アル』って呼ばれてた。

僕は捨て猫らしい。人間のお姉ちゃんが拾ってきてくれた。僕が拾われた家は4人家族。お父さんとお母さんとお姉ちゃんと妹の4人、それに僕だ。ここまで僕と喋ってるけど、性別は女の子だから、間違えないでね。

僕は令和5年の1月に死んだ。「一緒に年を迎えられて良かったね」「みんなが揃ってる時まで生きてくれてありがとう」と言ってくれた。みんなもう大人だけど、実家に帰ってきて、家族総出で見守ってくれた。優しい家族なんだ。ビビリの僕が長く生きてこれたのは、このあったかい家族のおかげだ。

僕はその時、見たんだ。家族の中で1人、天国に近い人がいるって。それは、その家族の1番下の子。妹だ。夢のある名前が付いているのに、その子の心はボロボロだった。その時の僕みたいに。僕は心配になって、入っていたいつもの段ボールからその子の前に一度降りようとした。その子がどうしていいか困っている姿が目に入ったけど、呼吸が苦しくて、目の前が見えなくなって前足を下ろしたところで途中で動けなくなった。
誰かが床に下ろしてくれて、僕はいつもの定位置に倒れこんだ。ここは庭が見える扉だ。僕の好きな場所。そこで僕は息を引き取った。


誰かが泣いている声が聞こえた。…分からない。でも知ってる人の声だった。僕は目を開けてみた。そこには海側に住んでいる妹の姿が見えた。

ガラスの試験管を高いところから落として割ったみたいにその子の心は、粉々になっていた。
泣いても泣いても泣いていて、わんわん泣いているその姿を見て僕はとても心配になった。
誰にも言えないで一人で抱え込む彼女を見ていると今にも糸が切れてしまいそうで、僕はその子の横にいることにした。

あれ、僕って死んだよね?

不思議に思ったら、僕の姿は透けていた。
彼女の前にも立ってみたけど、どうやら見えていないらしい。試しに鳴いてもみたけど、聞こえていないようだ。まぁ、彼女がそんな状態じゃないのかもしれないけれど。

ふむ、これは世にゆう『未練』ってやつかもしれない。

未練という不確かな要素が、明日生きてるか分からない不確かな彼女の糸と繋がったのかもしれない。
というわけで、僕は死ぬ間際に心配した彼女の元に戻ってきた。透明猫として。(化け猫かな…)

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