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『妄想力』

朝、とても重い気持ちで目が覚めた。
嫌な夢を見たからだ。
悪夢を引きずった気分のまま
ぼんやり天井を眺めながら
頭の中で重い気持ちを言語化してみた。

言語化したネガティブな意味が天井へ
漢字になって1つずつ浮かんでいく。
ネガティブな漢字には、ネガティブな
意味が宿る。

私はそれらを漢字から片仮名へ
脳内変換してみた。
不安「フアン 」 嫌悪「ケンオ」
焦燥 「ショウソウ」 病「ヤマイ」
なんだか片仮名だと軽くなる。

病んだ
病んでる
病んどる
「ヤンダ」「ヤンデル」「ヤンドル」
なんだか外人の名前みたい。
ふと、『はてしない物語』や『モモ』
などで有名なドイツの児童文学作家、
「ミヒャエル・エンデ」の名が浮かんだ。

毛布から這い出て、熱い紅茶をいれる。
それからパソコンを立ち上げて検索
してみた。

ヤンダ 「ヤコブ・ヤンダ」
チェコ共和国のスキージャンパー。

ヤンデル 「ハーマン・ヤンデル」
機動戦士ガンダムの登場人物。

ヤンドル 「エルンスト・ヤンドル」
オーストラリアの前衛詩人。

やっぱり人名にあった、と思うと
面白くて、重い気持ちはほぼ消えていた。

感情というものは、その時の気分にすぎない。
いつか通り過ぎるものだ。

キブン、キボン、キボウ(希望)
なんて三段活用もどきを妄想する。

ネガティブな漢字変換遊びを妄想して
いたら、ネガティブな気分も、
ネガティブな言葉も、妄想力で
ポジティブに変換される不思議。

私は熱い紅茶から立ち上がる湯気を
見ながら『アンネ・フランク』を
思い浮かべていた。

妄想力とは、想像力だ。
想像は創造に昇華出来る希望の産物だ。

アンネが過酷な現実のなかで妄想した、
架空の親友『キティ』に宛てた手紙のように。

アンネはキティに宛てることで、辛い現実を
冷静に俯瞰で見ることが出来ている。
キティの存在は彼女の心にユーモアを
もたらし、大きな支えとなっていただろう。

昔、「カプセル」という本を読んだことを
思い出した。

今はもう手元にないこの本の最後の方に
誘拐監禁された彼女の供述で、
「オレンジ色の空が夜の色になって」とか
車のトランクに入れられた際の事を、
「地獄の扉が口をあけて飲み込もうと
していた」というような詩的な表現があった
ことを、著者も感心して書かれていた。

この部分を私は繰り返し読んで
辛い経験を客観的に表す豊かな感性
がある、この子はきっと大丈夫だ、と
思った記憶がある。

丁寧な傍聴記録とルポの良質な本だけれど
、事件の残酷さに読むのが辛かった。
だから、偶然が重なり無事に発見され
た事と、長い長い監禁生活で人間性が
失われているどころか、詩的表現が
出来る彼女の感性に私自身が救われた。

ネガティブな感情は、辛い、過酷な、
悲しい、怖い、恐ろしい経験からくる。

ネガティブを経験し、妄想力で苦しい
だけの感情の中から、ユーモラスな
エッセンスを抽出する。

ネガティブとポジティブは表と裏ではなく
共存していくものだと感じる。
ネガティブを知り、変換できた者は強い。

しなる木のように、なかなか折れて
しまうことがない。
ポジティブだけの木は、強いネガティブの
風をかわした経験がないから、ぽっきりと
折れてしまいがちだ。

科学的に言うと、テンションが高く
ポジティブな状態が続いているのは
ドーパミンの分泌によるもので
いわゆるハイな状態。

このハイな状態を、モチベーション
にして集中力や意識を高く持ち続け
そこで成果を出した成功体験は
快感ホルモンとして、高揚感となる。

すると、また過剰にドーパミンを分泌
させて、もっとあの快楽を!刺激を!
成果を!と求め続ける。

ドーパミンには、イライラする、攻撃的、
暴力的になる、という性質があるので
過剰に分泌すると人格が悪い方へ
変化しやすい。

スポーツの世界などで暴行事件が
相次ぐのは、この過剰なドーパミン分泌
も少なからず影響している気がする。

ネガティブとポジティブを上手く共存
させる、そしてネガティブをいかに
ユーモラスに変換するか、これこそが、
人工知能にも不可能な、

『人間の妄想力=人間の生きる力』
なのだ〜!と、私は脳内変換しながら
朝の紅茶を静かに飲み干した。

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#ポジティブ #脳内変換 #言葉遊び

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