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シンセについて聞いてみよう その6~サンプラーと音楽文化~

佐々木:では、今日は前回語り切れなかったサンプラーが音楽文化に与えた影響について説明してみます。
(画像出典 AKAI-S900)

南:音楽文化に与えた影響、、、それは大ごとですね、、、

佐々木:南さんはヒップホップはお好きですか?

南:いや、そこまでは、、、でもブラックミュージックはよく聴いていたので、割と近い存在ではあったかな。

佐々木:なるほどなるほど。
実はこのサンプラーとヒップホップは切っても切り離せない存在なのです。

南:ほうほう、、、

佐々木:ヒップホップの話を始めると、結構長いことになってしまうのですが、
できるだけ簡単に説明しますね。

南:はい!できるだけ簡潔にお願い致します!

佐々木:ヒップホップというのは、ブルースのひ孫くらいに当たるもので、ブルースは同じようなコード進行を何度も繰り返し、そこに日々の暮らしに対する鬱憤だったり欲求だったりする思いを乗ってけて歌うものだったんですけども、そこにファンクのようなダンスミュージック的リズムをつけたものがヒップホップと言えます。黒人の生み出した独特な音楽ですね。

南:なるほど、、、

佐々木:ヒップホップを生み出した当初は、まずお気に入りのレコードの良いグルーブの歌のない部分1、2小節録音してそれをつなぎ何小節もループできるようにして、そこに歌を載せて行きました。ループミュージックのご先祖でもあります。
そうやって、楽器ではない音楽プレイヤーをまるで楽器のように扱い、音楽を作っていたんですね。
その後もTR808などのドラムマシンなどを使ったり、主にリズムを扱える楽器中心に進化して行きます。

そしてそこに登場したのがサンプラーです。

しかし初期のサンプラーは、本当に家が一軒買えるような値段だったので一般のミュージシャンが買えるようなものではなかったのですが、
時間が経つにつれてどんどん安くなっていって頑張れば買えるような値段になっていきます。ただ発音数もメモリもまだまだ少なくて、単発の音で使える音、主にリズムに使われるようになって行きます。

そこに目をつけたのがヒップホップの人達でした。リズムさえあればヒップホップは作れたわけですから、サンプラーはぴったりだと。それまでテープに録音していたものをデジタルで簡単に録音でき、ループも簡単にできる、そして何よりも楽器が弾けなくても音楽を作ることができる、と。

南:楽器が弾けなくても音楽が作れるというのは、いまの時代に言えることだと思ってました。

佐々木:そうなんですよ。そこにまずサンプラーが生み出した新しい文化を見ることができます。
ヒップホップをやり始めた人は、多くの場合、高等教育も受けられないような貧困層の人がメインでした。楽器を習うというのはやはりお金もかかる事で手軽に始められる事ではない。しかしサンプラーとレコードがあれば音楽が作れるじゃないか!と。

そうやって生み出されたヒップホップは、黒人文化をさらに世界に示していくことが可能になって行きました。
しかも当事彼らがサンプリングしていたのは、すでに発売されたレコードで著作権に守られていた。しかしそれをそのまま使い新たな価値を見出していく、、という新たな音楽文化が生まれたんですよ。サンプリングの音楽文化ですね。

南:んーなんだか思ったより小難しくなってきたなぁ、、、もうちょっと簡単に、、

佐々木:そうですね、、、汗

サンプリングというのはヒップホップが発祥ということではなくて、音楽文化がそもそも持っている要素とも言えるのですが、例えばクラシックでもあの有名な曲のフレーズをそのまま使ってしまうとか、ビートルズがアメリカやインドの音楽に憧れて、それに自分達のセンスを融合させて、とか。
ジャズがいろんな国の音楽を研究して、自分達のものにしてしまうのもいわばサンプリングと言えます。

そういう風に音楽というのは他の音楽やジャンルから触発されて作られたり、進化してきた面があるんですよね。
つまりヒップホップの人達のサンプリングという行為は、そもそも音楽が持っている一つの要素だったわけで、録音文化になっていた音楽業界の中で、レコードをそのまま使う事で世界中のあらゆる音楽を自分達の物に貪欲に吸収していくことが可能になりました。そしてそれがあっという間に簡単に行われていくことも重要なポイントですね。

例えばマイルスディビスのあのフレーズを取り入れたいと思った時、それまでは、まずトランペットを買い、練習をして、コピーするそして、自分達なりに改良する、、、と膨大な時間がかかります。
けどサンプラーさえあれば一瞬でそれが自分達の音楽に取り入れられるようになる、、、と。

南:なんか、、、ずるいな、、、笑

佐々木:そうですね笑
ですけど、皆が簡単にできることであれば、目立つ事が出来ません。みんな簡単にできちゃうわけだから。
そこで何をサンプリングすればかっこいいのか、というセンスのみに頼らなくてはいけない、、という事になって行きます。俺はこんなかっこいいグルーブの音楽を知っているんだぜ、、というような。

南:なるほどなるほど

佐々木:そうやって、音楽の再利用という考えが一般的に浸透して行きます。
昔は、古い音楽→新しい音楽というように古いものは破壊され、新しいものへと生まれ変わるというのが、音楽の一般的な進化でした。
しかし、80年代のヒップホップの登場により古い音楽をもう一度再利用するという考え方ができるようになったわけです。古い→新しい→古いみたいな。いわばルネッサンスですね。

南:リサイクル、、、

佐々木:そう言えば90年代に作られたソフトにリサイクルっていうソフトもありましたねw面白い話なんでその辺はまたいつか話したいなと思うのですが、

南:佐々木さんはネタが尽きないですねぇ。。。

佐々木:そうなんですよ〜!
んで音楽のリサイクルとしてとても象徴的だったのか、ヒップホップを代表するアーティストのRun-D.M.Cが作ったエアロスミスの「Walk this way」をサンプリングした曲ですね。この曲はハードロックの大御所エアロスミスの曲をサンプリングした事によって、その当時低迷していたエアロスミスが再び脚光をあびるという出来事がありました。PVにエアロスミスのスティーブンタイラーとジョーペリーが出演してたりして。ハードロックさえリサイクル。

南:へぇ〜そんな事が起きていたんですね。

佐々木:これがサンプラーが生み出した音楽の新しい文化と言えるのですが、この流れは実は現代でもほぼ主流の流れですよね。

南:というと?

佐々木:現代の音楽はほぼ過去の音楽の焼き直しでできているとも言えます。
日本だと最初期のロックバンドのハッピーエンドだったり、山下達郎のようなシティポップだったり、渋谷系だったり、そういう別の時代のものを下敷きに今風に仕上げていく。ちょっと前まであまり若者が聞く事のなかった日本のフォークシーンまでが、再注目されたりしてますよね。

南:あーなるほど、これもリサイクルか。

佐々木:そういう事なんです。EDMも言ってしまえばユーロビートだったり、テクノだったりが下敷きだし、ジャズやロックも当たり前にリサイクルされるようになった。これが現代の音楽シーンと言えます。

ヒップホップは世界中の過去の膨大な音楽遺産を掘る、文字通り世界中のレコードを発掘していったわけですね。レアなグルーブを求めて世界中のあらゆる音楽を聴きまくるという。そうして音楽のグローバル化は加速していきます。
そしてそれはリスナーとクリエイターの垣根がなくなっていったという事にも繋がります。現代音楽シーンは皆がリスナーでありクリエイターである、という時代になりましたよね。誰でもサブスクやSNSで簡単に世界に発信できる。こういう文化もヒップホップが発端かもしれないですよね。

南:今日はなるほどしかないw

佐々木:という事で簡単ですがサンプラーとヒップホップが生み出した、音楽文化の影響を見てきました。ざっとまとめると、、、、

黒人音楽文化の普及
・ループミュージックの普及
・楽器や演奏技術がなくても音楽が作れるようになる(音楽制作の一般化)
・多ジャンルの音楽との融合(音楽のグローバル化の加速)
・サンプリングによる音楽遺産の再利用
・リスナーとクリエイターの融合


ざっと挙げてもこれだけあるんですけど、これはあくまで音楽文化的な側面での影響であって、音楽的な部分はまだ出てきていません。音楽的な影響を説明するとさらに長くなってしまうのですが、軽く説明すると、、、、

南:あの、、、


佐々木:そもそもサンプラーは録音機械という側面もありまして、
録音した音楽を客観的に捉え直すという事ができるようになりました。

例えば全くテンポの違う音楽を二つ混ぜ合わせるとどうなるのか、違うキーの音楽をサンプリングして一つの音楽にするとどうなるのか、などの実験が簡単にできてしまうようになるんですね。これによって音楽そのものの可能性をさらに深めていく事に、、、、

南:あの!佐々木さん、、、!!
シンセサイザーって、、、!!!

佐々木:あぁ!そうでした!暑くなり過ぎてしまった。。。
では最後に簡単にまとめると、、、、
単なる電子楽器であるサンプラーは今までの音楽シーンを塗り替えるくらいに大きな影響と可能性をもたらした、、という事です。

サンプラーというものがなければこれらの事は全て起こり得なかったかもしれないという、楽器の域を超えて文化にまで影響してしまった、、、という話をしたかったのです。

南:なるほど〜!いや、でも本当に奥の深い世界だということだけはわかりましたよ!(長かったけど、、、、)

佐々木:それだけでもわかってくれたら今日の所は十分です。ちょっと補足になりますが、このサンプラーの登場によって音楽制作そのものが変わっていった、という話をまたいつかできたら良いなと思います、、、、、終わります。

南:なるほどしかない今日という日を、わたしは生涯忘れない。

佐々木:サンプラーというものに興味を持てましたか?笑

南:はい!わたしは今日からサンプラーになります。

佐々木:それは素晴らしい!では次回はウェーブテーブルシンセサイザーについて、、、w

南:グハァ!!!!



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