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30年以上にわたり、大学・専門学校を含む教育業界で英語の指導をしてきました。特に予備校…

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30年以上にわたり、大学・専門学校を含む教育業界で英語の指導をしてきました。特に予備校ではずっと東大・京大・医学部の受験生と対峙してきました。専門は英語学・語用論・応用言語学です。近年は TEFL とりわけ L2 Writing を研究領域としています。

マガジン

  • 大学入試以後の英語学習

    大学入試を終えて、まだ頑張るという健気な生徒たちへ

  • 自由英作文教室(準備編)

    大学入試のライティング問題でかつての和文英訳に代わって主流化しつつあるのが自由英作文と呼ばれる問題群です。本格的な学びを始めるにあたって、まず最低限の常識を身につけましょう。

  • 自由英作文教室(基礎編)

    大学入試の英語表現力問題のうち現在60%近くを占めている自由英作文(パラグラフ・ライティング)問題。その基礎を学びましょう。

  • 大学入試「自由英作文」の深淵

    受験産業の世界の「自由英作文」というアヤシイ商品。その闇を知った応用言語学者・実務翻訳者・大学教員が大学受験生のために、科学的なライティングのメソッドを考えました。

  • 受験生のなやみごと(秋)

最近の記事

大学入試以後の英語学習3.2

前回の投稿では AI の発達に伴い、実用面から見ると外国語学習は不要になってしまう可能性が高いという話をしました。 同時通訳ガジェット インバウンドで日本を訪れる外国人や、日本に居住する外国人とのきちんとした意思疎通(相手は英語話者とは限らない)が喫緊の課題となっている方々は全国に非常にたくさんいます。 鉄道各社の駅員の方やバスやタクシーの運転手の方、旅館や民宿のフロントクラークの方、USJなどのテーマパークの従業員、観光地の商店や観光名所の受付担当者、日本文化体験の担

    • 大学入試以後の英語学習3.1

      技術が語学学習を無力化する? 他人の思考や情動を(あたかも自分が考えたり、感じたりしているように)共有することが可能にならないか、ということを考えているエンジニアの人がいます。さしあたり(ほとんど遅延なしに)知覚を共有する技術は現時点でも実用化されています。沖縄に住んでいてもスキーを体験することができるんですね。 こういう技術が、思考や情動の共有を目指すのは当然の流れかもしれません。革命的な技術がさらにもう何段階か必要でしょうが、他人の思考や情動を共有することが技術的に可

      • 大学入試以後の英語学習2.2

        非・一般常識というもの 日常会話に反映される「一般常識」ですが、この一般常識なるものについては、やや補足説明が必要でしょう。 たとえば、次の文を理解するには(どうでもいいかもしれない)常識が必要です。 AKB48 のファンの方々にとっては、どうでもよくない常識かもしれませんが、AKB48の歴代の人物録を知らない人(たとえば日本語学習者=留学生)がこの文を読むと「たかみな」は食材だと考えます。カツ丼の脇に添えられたお漬物の類でしょうか。高菜の仲間かなにかに聞こえるのです。

        • 大学入試以後の英語学習2.1

          さて、前回は大学受験を終えた人からの「今後、どのように勉強するのが良いか」という質問に対するお答えの入口として、まず基礎づくりをする話をしました。 今日は、その基礎の上にどんな建物を作っていくかについて、その見取り図を私見を交えてお話しします。 話をわかりやすくするために、いきなり英語の話ではなく、とりあえずの迂回路としてまず日本語の話をします。少し遠回りに感じられるかもしれませんが、必要な遠回りです。お付き合いいただければ幸いです。 この記事は、前回お約束した「認知的

        大学入試以後の英語学習3.2

        マガジン

        • 大学入試以後の英語学習
          5本
        • 自由英作文教室(準備編)
          3本
        • 自由英作文教室(基礎編)
          3本
        • 大学入試「自由英作文」の深淵
          10本
        • 受験生のなやみごと(秋)
          4本

        記事

          大学入試以後の英語学習1

          大学入試のピーク期をすぎると、受験の報告とともに「今後、どのように勉強するのが良いか」という質問をよく受けます。この記事ではこの問について考えてみたいと思います。 日本語環境で生育した人々もいろいろ まず考えておきたいのが背景の問題です。大学受験生の場合も、質問者の生育環境は一様ではありません。ここで生育環境というのは英語習得上のそれのことです。 日本の大学を受験する受験生の場合は、大まかに分けると次のようなセグメントがあります。 (A) 日本語環境で生まれ育った。

          大学入試以後の英語学習1

          自由英作文教室(基礎編)3・完

          First outline, then details 前回は、文に S, V, O, C があるように、パラグラフにも構成要素があるというお話をしました。 その構成要素とは次の4つでした。 (1) Sneak peek (2) Reasons in general (3) specific Details (4) the Punchline 今回はパラグラフの心臓部=(2)と(3)についてお話しします。 ここで重要なのは General to specific と

          自由英作文教室(基礎編)3・完

          自由英作文教室(基礎編)2

          One main idea in one paragraph意味の最小単位=パラグラフ 論述型パラグラフは英語の意味の最小単位です。個々の語句も、文のもつ意味も、パラグラフを単位として決定されます。 たとえば次の文はどういう意味でしょうか? 多くの東大や京大の受験生が次のように答えます。 これで問題ないのでは?と思われるかもしれませんね。しかし、私にはこれが正しいのかどうかがわかりません。 この文を含むパラグラフが与えられれば、この文の意味を判別できます。たとえば、

          自由英作文教室(基礎編)2

          自由英作文教室(基礎編)1

          問われたことに答えない受験生意外なことかもしれませんが、大学受験生は自由英作文の問題で何を述べなければならないのかがよくわかっていないようです。 実際、入試の採点官がいつもブチ切れています。 「なんで聞かれたことに答えないんだ!」 「工学部のぼくの束は全滅だった!」 「自分の書きたいことしか書いてないよ!」 予備校や大学でパラグラフを書かせても最初は皆同じ状況です。問われたことに関係のある、答えたいことを答えるのです。これはもうイチから教えるしかないと、私の講座では基礎か

          自由英作文教室(基礎編)1

          不定冠詞をめぐる冒険(受験生向け)

          日本人は冠詞を間違える 多くの(と、いちおう言葉を濁しておきますが)日本人にとって冠詞はどうやらかなりの難物のようです。 先日も知り合いの英語学者(日本人)に論文のネイティブ・チェックを頼まれたのですが、結局、冠詞の誤りばかり直していました。専門分野の論文ですから、用語のお作法がわかっていれば言っていることはだいたいわかるはずなのですが、それでも中には(冠詞のせいで)理解に苦労して、仕方なく書いた本人に意図を確認した箇所もありました。 毎日英語ばかり使っている英文法の研

          不定冠詞をめぐる冒険(受験生向け)

          自由英作文教室(準備編)3・完

          大学入試と模擬試験 前回《準備編2》では、分析的評価法のことをお話ししました。採点者間のブレを最小化するために、いくつかの評価項目に分けて配点するわけです。 たとえば、受験産業の模擬試験でも、「内容」と「英語」の2つに分けて採点が行われます。これとどこが違うかというと全然違います。 まず「内容」についてですが、模擬試験では「与えられた題材に即しているかどうかを三段階で評価する」といった基準しかありません。しかし大学入試では、書くべきポイントがいくつか定められていて 「A

          自由英作文教室(準備編)3・完

          自由英作文教室(準備編)2

          準備編の第2回。 まえがき 今回は大学教員が英語で書かれたパラグラフを見る時にどういう見方をしているかをお話ししておきます。 分析的評価法 英文を評価するときに使われるモデルは大別して2種類あります。「統合的評価法」と「分析的評価法」と呼ばれています。 ここでお話しするのは分析的評価法です。評価法では ESL Composition Profile  (Jacobs et al., 1981) というのが最も有名で、半世紀の歴史があります。 内容30点、構成20点

          自由英作文教室(準備編)2

          自由英作文教室(準備編)1

          はじめに 大学入試でも検定試験でも、高校卒業程度の英語力があるかどうかを調べる試験で、表現力問題というのは、複数パラグラフをまとめる an essay というよりは、単一の a paragraph を書く能力を調べています。paragraph は日本語で「段落」と訳されますが、日本語と違って英語の a paragraph の場合には(小説を書くのでなければ)構成上の決まりごとがあります。 学習者の方々には、まずこの「決まりごと」を身につけていただきたいと思います。数学の公

          自由英作文教室(準備編)1

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.2.1

          対比と類比 3.2では大阪大学の問題を使って、換言法でパラグラフを構成する方法について考察しました。今回はパラグラフ構成法として、対比と類比を用いる場合を考えます。 前回の例題A・Bは2題とも対比と類比を使うのですが、ここではBをとりあげます。 例題B すだれを知らない英語母語話者にわかってもらうには、比較を使うのでした。 すだれと似ていて、英語圏にありそうなものというとブラインド(window blind)です。 では、すだれとブラインドを両者を材質・用途の2点

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.2.1

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.2

          論理展開の型 前回の3.1.1.2の記述の中で、パラグラフの構成法を次の3つに分けました。 ものごとを説明するときに「何を書くか」は最も重要なものですが、次に重要なのは「どのような構成で書くか」です。この3種類のどの方法が適切なのかを吟味してから説明にとりかかることが必要です。 たとえば次の問題では、どのように説明をすることになるでしょうか? 例題A 例題B まず何を書くかを絞ります。次の3種類から選ぶのでしたね。 Ⅰ 主観的‥‥体験/嗜好‥‥創作 Ⅱ 客観的事

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.2

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.1.1.2

          今回は問題4の解答編です。 問題4 事実を書く問題 この問題は事実を踏まえて、good/not good を述べる問題です。善悪の判断をするわけではありません。この問題は「どうあるべきか」(カントのいう道徳的当為)を尋ねているわけではなく、globalization の影響が「実際どうなっているか」(実在)を尋ねているだけです。 問題の指示文に your own explanations(あなた独自の理由説明)とありますが、これは無視しましょう。事実はひとつです。それ

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.1.1.2

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.1.1

          カタカナ語の深淵 カタカナ語は外来語‥‥という印象がもたれています。もとになっている外国語の単語と同義なのだろうという連想も働きやすいものです。 たしかに「ストレス」は英語でも stress で、この両者は(ちょっと使い方は違うものの)少なくとも「類義」とは言えると思います。しかし、外来語ではないカタカタ語もあります。 ハイテンション この歌で、AKB48の女の子たちは「間違い英語 関係ねえ」と歌いますが、私は「ハイテンション」は「間違い英語」ではないと思います。

          大学入試「自由英作文」問題の深淵3.1.1