自由英作文教室(基礎編)2
One main idea in one paragraph
意味の最小単位=パラグラフ
論述型パラグラフは英語の意味の最小単位です。個々の語句も、文のもつ意味も、パラグラフを単位として決定されます。
たとえば次の文はどういう意味でしょうか?
多くの東大や京大の受験生が次のように答えます。
これで問題ないのでは?と思われるかもしれませんね。しかし、私にはこれが正しいのかどうかがわかりません。
この文を含むパラグラフが与えられれば、この文の意味を判別できます。たとえば、この文が
「親が子供につける名前は、その子の人生に何らかの影響を与えるのか」
という主題のパラグラフの一節だとしましょう。すると、この文は、10代の子供のパーソナリティとその子の名前との関係が言いたくて、話を切り出したのだろうと推測されます。
人は生まれたときに名前をもらいます。10代の子供はその名前を10年以上背負ってきていることになります。果たしてその名前の通りの性格になっているかどうか、そこに筆者は興味をもっている、という話になってきます。たとえば「誠」という名前の子が10代になったときに本当に誠実な人になっているのか、という話です。
つまり、このパラグラフの中では Christians は「キリスト教徒」ではなく、「クリスチャンという名前の人」なのです。クリスチャンさんたちは(キリスト教徒のように)隣人愛を重んじる子供たちになっているのか否か、そこがこの文の関心の対象です。
したがって、正しい日本語訳はたとえば次のようになります。
このように語や文の意味を決定するのはパラグラフなのです。
パラグラフの目的
パラグラフが英語の意味の最小単位であるとはどういうことかおわかりいただけたでしょうか。
では、そのパラグラフとは何かを理解するために、まず最初に、パラグラフの目指すものについて述べておきたいと思います。
パラグラフの目的はひとつ。主題(the main idea)を説明することです。シンプルですね。もし主題が2つあるなら、パラグラフも2つに分かれます。
次の問題を見てください。
この問題は解答を書くための方針を与えてくれています。主題は1つ。説明として理由を2つ。(このように方針を指定するのはもっぱら採点上の都合です。)
ただし、ここにはちょっと罠があって「具体的に」と指示されています。すると、理由として個人的体験を書く受験生が出てきます。「あなたが最も重要と考えること」という指示がその傾向に拍車をかけます。
以下はそうした解答の例です。
ある受験生の迷解答
理由らしきものがひとつしかない点はさておき、それを除けばこの答案は一見まともそうに見えるかもしれません。ですが、論理が滅茶苦茶です。
この人が一般化が好きだということは個人の好みの話で、大学の研究の《あるべき姿》とは関係ありませんし、この人が先人の誰かの考えたこととは知らずに、子供の頃に様々な問題を必死に考えたという経験は(もしこの人が研究者だったとして)その研究生活の指針のひとつになっているということはあるかもしれませんが(たとえこの人がこの問題を出題した京都大学の現総長であろうと)研究者個人の体験と、大学の研究全体がどうあるべきかということとは別次元の話です。
この問題は基礎編1(←クリックすると記事にジャンプします)で述べたB型です。個人の体験をもとに述べるA型ではありません。この問題の主題はたかだか一人の経験が根拠になるようなものではないのです。
この問題では、大学の研究者なら誰にでも当てはまるような客観的な事実を2つ選び、それらを理由としてまず大まかに示し、それを具体化する形で解答することが求められているのです。
では、次の問題はどうでしょうか。
これも方針は迷わないでしょう。この問題は芸術の社会的価値について論じるものです。一個人の狭い体験から述べられる性質のことがらではありません。過剰な一般化にならないように、客観性のある事実を理由としてあげて、それをもとに理にかなった判断を述べます。
いずれにしても主題は1つです。解答は1パラグラフで書くことが期待されています。
英語パラグラフの基本的な構成要素
では、英語のパラグラフはどのような構成になるかを確認しておきましょう。
構成要素1: Sneak peek
言いたいことを予告するもの。結論の先出し。一種の要約です。sneak peek はアメリカ弁で、発売前の新製品や、公開前の施設や映画などをチラ見せすることです。映画では trailers と呼ぶこともあります。パラグラフではここで述べたもの以外は後の説明部分で書いてはいけません。理由や具体例を述べる場合は、その予告もしておく必要があります。
構成要素2: Reasons in general
理由を大まかに述べる部分です。理由として述べたいことがらが色々とあると思いますが、はじめは具体性の強いことは述べません。
構成要素3: Specific Details for supporting the reasons
先に述べた理由を詳しくかみ砕いて、ポイントを明確にする部分です。効果的な具体説明(例とは限らない)を選ぶことが求められます。
構成要素4: the Punchline
落語で言う「サゲ」、漫才の「オチ」、話の「シメ」に使う効果的な決めゼリフのことを the punchline と言います。パラグラフがひとつしかない時には結論文は不要です。よく、はじめの主張を繰り返しているだけの答案を見かけますが、あれなどはただの水増しにしか見えません。書くなら全体を積分したものを置くか、短くて効果的な決めゼリフで締めるかです。(でも、締めを何も書かないという選択もあります。語数との相談になります。)
この the Punchline とはどのようなものなのか、少し具体例を見てみましょう。
次の問題をご覧ください。
最善のストレス解消策は?という問題ですが、個人的な the best way を書くのか、多くの人に広く当てはまる the best way を書くのかが曖昧です。
きっとこれは意図的です。the best way とありますが、これを your best way とするとA型解答のみになってしまう。そこを the best way にしたのは B型解答も受け入れるつもりなのでしょう。(本当は What is your best way to reduce stress levels? としたほうが試験問題としてはいいのですけどね。)
次は東京大学の文科一類に進学した生徒の解答です。
まだあちこち修正した方がよい箇所がいくつかありますが、とてもよくできている答案です。
この解答の方針はB型です。「題意をB型と解釈して書くよ!」という宣言的前置きのあと、提案の最初に「sleep なら誰でもできて、続けられるからおススメ」と一般論を述べています。
ここには a good dream in bed と言っておいて、直後に Sleep で承けるという表現連携(語彙的結束性と言います)が見られます。(この段階で既に、採点者としては期待が膨らみます。)
一般論の後に、take the best loving care という箇所が出てきますが、これが the punchline のための布石になっています。
最後から2つめの文の a good night がまたさりげなく良い仕事をしていますね。これは主題である Sleep を受ける言葉で、これがあるからパラグラフの最後に置かれた the punchline が主題と明確につながるわけです。
そして、この a good night に続く followed by a glorious morning も布石。ここの glorious は the punchline で beauty に化けています。morning は awakens に、そしてさっきの the best loving care は a loving kiss に化けています。
こうした語句的結束性の仕掛けを使って、眠れる森の美女(the sleeping beauty)が王子の愛のキスで魔法が解けて目覚め、王国に新しい時代が来るというヨーロッパの古い民話に掛けた巧妙な the punchline ができあがっています。
この生徒も最初はダメダメでした。なんとなく関連性のありそうな思いついたことを並べているだけで、まとまりのあるパラグラフが書けませんでした。
問題を解いてダメ出しされて、考えるヒントをもらって書き直して‥‥という過程を粘り強く何回も繰り返して、やっと合格という修行を20問くらい経て、この域に辿り着いたのです。
初心者のうちは、このように(ヒントはもらうとしても)自分で考えて完成度を高めていく修行期間がどうしても必要です。それによって、どういう目配りをしなければパラグラフにまとまりがうまれないかが体得できますし、最後の the punchline を創出する苦しさと楽しさの両方がわかってくるはずです。そして、何よりも自力で突破し続けてきたことで、莫大な成功体験が集積されて、絶対の自信に繋がります。
入試だけでなく、今後の人生で苦難に遭遇した時にも、それが活きるといいのですけどね。
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