【蠱毒・花に纏わる実話怪談】花人形
児玉さんが初めて人を呪ったのは、幼稚園の頃だった。大好きなユウ君と手を繋いでいた女の子。もう名前も覚えていない。近所の小学生のお姉ちゃんが教えてくれた花人形の呪いだ。
お姉ちゃんに教えてもらった通り、目に留まったたんぽぽの花で土の上に人形を作った。殻を取ったカタツムリ、ソーダで溺れさせた蜘蛛、接着剤で固めたアリ、ダンゴムシをバケツの中に入れ「ぐちゃぐちゃになっちゃえ!」と相手の名前を3回唱える。そしてバケツの中身を花人形にかける。するとビタンビタンと花人形の上で蠢く蟲たちが、人型の花を攻撃するのだそうだ。
給食を残した事を怒った先生、近所の生意気な小学生、生理で体育を見学していたクラスメイト。児玉さんが呪った相手は皆、いじめられたり怪我をしたり病気になったりして学校や地域から去っていった。
児玉さんにとってはお砂場で山を作るのと同じ感覚のお遊びだったという。
花人形の事などすっかり忘れていた2011年の春、小包が届いた。卒業した小学校からだ。ちょうどテレビで朝ドラの再放送を見終わった児玉さんは小包を開いた。すると、中から声が聞こえてきた。
『あなたに全てをお返しします』
14時46分、地震が起きた。茨城と福島の県境に住んでいた彼女は津波に襲われる事はなかったが、三日三晩、真っ暗な瓦礫の下で大量の土砂と虫たちと共に過ごしたそうだ。それから暫くの間、吐瀉物には、たんぽぽの花弁に混じって蟻とダンゴムシがくっついたネバネバした黒い塊が出てきたのだという。
液状化で家が傾き、その地域に住めなくなった児玉さんは家を売り払った。土地を離れる際、小学校の同級生に小包の中身を聞くと卒業文集だったそうだ。
東日本大震災から十数年。児玉さんは、今でも時々、人を呪いたくなるのだと云う。
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