ねこぽて

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実話怪談『閉める』

 千葉さんが日課にしているウォーキングコースには、横向きの棹石が美しく並ぶ大きな霊園がある。南東の雲の一部が赤く染まり始めた午前五時頃、シャンシャンという音と共にスプリンクラーが回り始めた。千葉さんは、これを合図に小休憩をとることにしていた。  水に濡れた芝生の甘い香りを五感で楽しんでいると、スカンッスカンッとアルミ缶を蹴るような音が聞こえてくる。スプリンクラーに小石でも挟まったのだろうか。そう思った千葉さんは霊園に向かって二、三歩足を進めたところでピタッと微動だにできなくな

    • 【実話怪談】位牌を拾ってきた猫

       去年、後藤さんは片足を怪我した猫を拾った。飼っている猫は皆元野良猫で、片足を怪我した黒猫で六匹目になる。首周りが白い毛で覆われていて、まるでマフラーを巻いているみたいだったので『マフラー』と名付けた。年老いた猫で甘えっ子で、哺乳瓶からしかミルクを飲まなかった。  ある日、マフラーが白木の位牌を拾ってきた。後藤さんの家の近くには巨大な湖があり、時折、誰かが捨てたものを猫が拾ってくるのだ。  位牌を拾ってきて以来、猫たちが同じ方向を見て警戒する。庭で草を毟っていると誰もいない屋

      • 【実話怪談】猫壺

         恵さんが傷心旅行でその場所を訪れたのは、雪化粧した穂高岳が美しい四年前の十月のことであった。  八年ほど付き合っていた男性の二股が発覚し、知らないうちに彼が既婚者になり一児の父親になっていたという事実に打ちのめされた恵さんは男性不信に陥り、過食のため半年で三十キロも太ってしまった。美容に人一倍気をつけていた恵さんの変わり果てた姿を心配した友人がN県周辺にある別邸へ招待してくれたのだ。  ピザ釜でしらすとモッツァレラチーズのピザを焼きながらハンモックに包まれて星を眺める。ホッ

        • 【心臓ドライブ①】ここ1ヶ月、心臓の動悸が激しくて苦しい。寝ていても立っていても机に座っていても、1日中ドッドッドッドッて心臓が「ここから出せー!出せーっ!」って内側から叩いているみたいに。きみが飛び出したら私はしんじゃうの。どこかにいきたいの?🚗🫀

        実話怪談『閉める』

        • 【実話怪談】位牌を拾ってきた猫

        • 【実話怪談】猫壺

        • 【心臓ドライブ①】ここ1ヶ月、心臓の動悸が激しくて苦しい。寝ていても立っていても机に座っていても、1日中ドッドッドッドッて心臓が「ここから出せー!出せーっ!」って内側から叩いているみたいに。きみが飛び出したら私はしんじゃうの。どこかにいきたいの?🚗🫀

          【実話怪談】栗の木

          瀬川さんが小学二年生の時、通っていた通学路に大きな栗の木が生えた家があった。何度か、この家のおじいちゃんに栗を分けてもらったことのある瀬川さんは御礼がしたいと思い、折り紙で作ったチューリップの花束を持ってこの家を訪れた。しかし、訪れた時にはドアノブに鎖のようなものがかけられ家の中も無人のようであった。母親にこの事を話すと「もう随分前から認知症が進んでいて隣人ともトラブルが多かったみたいよ。首を吊ったのは何日前だったかしら……そんな危ない所に行くなんて!」と拳骨された。 小学二

          【実話怪談】栗の木

          【実話怪談】 割れ木瓜

          兵庫県出身の山本さんが、墓じまいをしようと親戚一同で会議をした時の話だ。 山本さんのご実家は、但馬の古代豪族日下部氏にゆかりがあると云われており墓には木瓜紋が刻まれている。 墓じまいの後は遺骨を取り出し、どこかへ移動させなければいけないのだが、まず永代供養にするか散骨にするかで揉めた。さらに遺骨の移動方法は車にするのか、誰が運転するのか公共交通機関を使うかで揉め、ようやく話がまとまった頃には煤を塗りたくったような空が広がっていた。 いよいよ、遺骨を取り出して墓石の撤去を行

          【実話怪談】 割れ木瓜

          【実話怪談】 瓶詰め

          死臭蒐集家の杜さんと出逢ったのは、台風19号の爪痕が色濃く残る令和元年の事であった。 杜さんは、都内の特別養護老人ホームに御勤めの看護師だ。彼女は100円ショップで買ったような透明のジャム瓶を私の目の前に差し出すと「何の匂いがします?」と聞いてきた。ココナッツのような甘ったるい匂い、ししゃものような生臭い匂い、パクチーのような苦味が鼻に抜ける匂い。 「知ってます?死臭って人によって違うんですよ」 長年、看護師を勤めてきた彼女は「もっと早く病気の進行に気づいてあげれたら患者

          【実話怪談】 瓶詰め

          【実話怪談】ストリートビュー

          難病で外出する事の出来ない寺山さんはストリートビューを楽しむ事が日課だ。ある日、何気なく関東にある山の1つを拡大して見ていると首を吊っている人が写っている。揺れるはずが無い。だが男は画面の中でブツンと首から下が捥げて落ちた。

          【実話怪談】ストリートビュー

          【実話怪談】眼科医が体験した怖い話

          眼科医から聞いた話。 飛蚊症が酷くなったと診察時間の終わりに駆け込んできた30代の男性がいた。まばたきするたびに視界に黒い髪の毛のようなものが飛んでいるのが見えるというのだ。瞼の裏を見ると幼児の髪の毛のようなものが張り付いている。念の為に「お子さんはいますか?」と尋ねると居ないと言う。 それから1週間もしない内にまた彼が診察時間の終わりに駆け込んできた。目が痛くて眠れないと言うのだ。確かに充血している。瞼の裏を見るとやはり幼児の髪の毛のようなものが張り付いている。ツーと刺身

          【実話怪談】眼科医が体験した怖い話

          【蠱毒・花に纏わる実話怪談】花人形

          児玉さんが初めて人を呪ったのは、幼稚園の頃だった。大好きなユウ君と手を繋いでいた女の子。もう名前も覚えていない。近所の小学生のお姉ちゃんが教えてくれた花人形の呪いだ。 お姉ちゃんに教えてもらった通り、目に留まったたんぽぽの花で土の上に人形を作った。殻を取ったカタツムリ、ソーダで溺れさせた蜘蛛、接着剤で固めたアリ、ダンゴムシをバケツの中に入れ「ぐちゃぐちゃになっちゃえ!」と相手の名前を3回唱える。そしてバケツの中身を花人形にかける。するとビタンビタンと花人形の上で蠢く蟲たちが

          【蠱毒・花に纏わる実話怪談】花人形

          【妖に纏わる実話怪談】入浴室の垢嘗

          人間の舌というものは、最大何センチまで伸びるのか皆さんはご存知だろうか。 アメリカ・カリフォルニア州に住むアーティスト、ニック・ストーベール氏は「世界一長い舌を持つ男」として2012年以降ギネス世界記録を保持し続けている。 ニック・ストーベール氏の舌の長さは唇から舌の先まで約10.1cm。 今から20年前、濱田さんは社会福祉士の資格をとるため都内の特別養護老人ホームに実習にきていた。実習初日、早速新人いびりに遭った濱田さんはデイサービスの送迎、レクリエーションの企画・進行

          【妖に纏わる実話怪談】入浴室の垢嘗

          【妖に纏わる実話怪談】オハチスエ

          オハチスエとは、アイヌ民族の伝承に登場する妖怪で空家に棲みつき悪さをするという。 世田谷区に在住の石田さんは、まったく知らない人の家に勝手に上がり込み無断居住をしていたという一風変わった犯罪歴を持っている。 多摩川にオスのアゴヒゲアザラシが初めて姿を見せた2002年の夏、石田さんが日雇いのバイトを終え住み慣れた天袋に戻ると全く知らない男と鉢合わせした。男はなんと石田さんが住んでいる天袋の下にある地袋に仮住まいしていたのだ。 「こちら側の住人になってもう何年くらい?」 「

          【妖に纏わる実話怪談】オハチスエ

          【妖に纏わる実話怪談】踊り首

          裏社会ライターをしている倉持さんから聞いた話。 倉持さんがまだ新人の頃、自分の事をよく可愛がってくれるNという大先輩がいたそうだ。N先輩は大の女好きで6人ほど愛人がいたらしい。その中で1番N先輩と付き合いの浅いSという女の子がいた。Sとはゲーム内で知り合い、互いに既婚者であったが電話やチャットで擬似セックスを楽しむ仲であったという。 そんなN先輩が目の手術のため、入院することになった。なんでも寝ている間に女が馬乗りになってきて両目を押し潰そうとしたのだという。それだけじゃ

          【妖に纏わる実話怪談】踊り首

          【妖に纏わる実話怪談】ミミズ花火

          川島さんは幼い頃、タイにあるコンドミニアムに住んでいた時期がある。 ある日、バンコクの青山とも言われているトンローの日本食レストランに父が連れて行ってくれた帰り道、川島さん親子は目出し帽を被った男に襲われ持っていた財布や時計、携帯電話、眼鏡などを盗られた事があるのだという。 しかし川島さんの父親は慌てた様子も無く、90度に折り曲げた親指に人差し指を乗せ作った円の中に唇を押し付けると何かを呟いた。何と言ったかハッキリ分からなかったが、父親の首の付け根から大小様々な大きさの黒

          【妖に纏わる実話怪談】ミミズ花火

          おばりよん

          『おばりよん』とは新潟県の三条市に伝わる妖怪の一種で、夜道を歩いていると通行人の背中に飛び乗り、相手の頭を齧るとされている。他にも昔話で、重たい何者かが背に乗り、仕方なく背負ったまま帰宅するとそれが大量の金になっていたというものもある。 小学5年生の夏休み、荻田さんは母方の祖父母の家に1週間ほど滞在した事がある。1人で祖父母の家に泊まりに行ったのはそれが初めてだった。東京に住んでいた荻田さんにとって新潟の祖父母の家は木の香りがし、虫が沢山いて、お腹が空いたら家の目の前にある

          おばりよん

          わたしのバズ。

          生姜をする香りがキッチンに広がる。嗚呼、そういえば《彼》も昔、こんな香りのタバコを吸っていたっけ。 レモンの香りがする度に、《彼》が愛しているよと伝えた女の数だけ私のスマホに嫌がらせの無言電話がかかってくる事を思い出した。 記憶に蓋をしたくても、ふとした香りや音で心の奥底に沈めた何かが浮いてくることがある。まるで、空気を入れたビニール袋みたいに。石を括り付けて無理矢理沈めても、やがてしおしおになって浮いてくるのだ。まるで浜辺に打ち上げられた海月みたいに。心理学用語的には、

          わたしのバズ。