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【実話怪談】 割れ木瓜

兵庫県出身の山本さんが、墓じまいをしようと親戚一同で会議をした時の話だ。

山本さんのご実家は、但馬の古代豪族日下部氏にゆかりがあると云われており墓には木瓜紋が刻まれている。
墓じまいの後は遺骨を取り出し、どこかへ移動させなければいけないのだが、まず永代供養にするか散骨にするかで揉めた。さらに遺骨の移動方法は車にするのか、誰が運転するのか公共交通機関を使うかで揉め、ようやく話がまとまった頃には煤を塗りたくったような空が広がっていた。

いよいよ、遺骨を取り出して墓石の撤去を行い、墓があった場所を更地にする日が近づいてきたある日、山本さんは激しい胃痛に襲われた。まるで胃腸を掴まれ引っ張り出されるような痛みに声も出ず、冷や汗をかきながら七転八倒し2時間後、ようやく携帯の置いてあるリビングまで匍匐することができた。救急車を呼んでいる間に山本さんの視界は両端から黒ずんだ。暗がりゆく視界の片隅に山本さんは何人かの両足を捉えた。救急隊員がこんなにも早く来てくれたのかと山本さんは安堵した。しかしその足首はブルーチーズのような色と臭いを放ち、足の爪の合間には髪の毛の混じった土がこびりついている。山本さんは背筋に冷たいものが走るのを感じた。じっと…見下ろされている。

山本さんが意識を取り戻したのは、2週間後のことだった。その間、山本さんは急性膵炎で手術を受け腹膜炎で42度を振り切る高熱に魘され、死の淵を彷徨っていた。見舞いに来た親族から聞いた話では、更地にした裏山に幾つかの位牌が埋められていたそうだ。木瓜紋のついた位牌はバリッと大きな音を立てると真っ二つに割れた。

後から調べて分かったことなのだが、山本さんの家は代々浄土真宗である為、魂抜きと呼ばれる概念が無く閉眼供養を行わなかった。親族が云うにはおそらくお妾さんの類で他宗教の者がいたのではないかということであった。

現在、山本さんは奥さんと娘さんの3人で京都に住んでいる。

先祖の祟りか、警告か。
時折、親族の家を訪ねるが鬼瓦の上の木瓜紋だけ何故か雷に打たれたように割れているのだと云う。

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