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質の悪いブランディング:PDLB

ホテルが好きだ。都内に住んではいるが、月に数回は都内のホテルに泊まる。仕事でも地方での打ち合わせやロケで頻繁に泊まる。

ホテルにはいくつもの役割があって、気分を仕事場から切り離す意味、ノイズのない場所にいる意味、非日常にいると感じる意味などがある。

若い頃、ヨーロッパのホテルに泊まるようになってから、ホテルそのものに興味を持った。『月刊HOTEL』という業界誌を購読していたこともある。ホテルのホスピタリティの根本は「ブランディング」で、その最高峰がヨーロッパにある。だからと言って、ムーリスやクリヨンだけがいいというわけではない。

どんなものにも上から下まで、その存在価値に合わせたブランディングがある。2つ星のホテルに、1泊100万円のホテルと同様のサービスを求めることは無意味な上、星の数は豪華さとは関係がない。星は、レストランが併設されているか、など具体的な付帯設備のことを表しているだけだ。大規模で高級なホテルにはあらゆる設備があるから星が増えることは多いが、4つ星よりも上質な3つ星も数多くある。

子供の頃、近所にあったのでよく眺めていた「ホテル・ニュー・グランド」の影響は大きい。1927年創業、ヨーロッパ風のクラシカルなホテルだ。今は新館のタワーができているが、泊まるなら本館がいいに決まっている。子供心に「大人になったらあそこに泊まりたいなあ」と感じていた。ホテルに欠かせないモノは「時間」だと思っている。最新のトレンドを詰め込んだホテルに何も感じないのは、そこにはまだ歴史が存在しないからだ。

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パリで初めて泊まったセーヌに面した小さなホテルには、オスカー・ワイルドが暮らしていた部屋があった。それはタイムスリップの体験でもある。自分がベッドに寝転がって見上げている天井や、窓の外の川の流れは、当時、文豪が見ていたものと同じなのだ。

今はもうあるかどうか知らないが、帝国ホテルの企業広告が好きだった。ホテルの裏方の仕事ぶりを淡々と語っていた。たとえば「チェックアウトしても一定期間ゴミを捨てないで保管しておく」ことが帝国ホテルのルール。宿泊客が間違えて大事なモノをゴミ箱に捨ててしまっている可能性があるからだ。

そうした長年続いてきたサービスの姿勢がブランドを作る。今、何が流行っているか、なんていう安っぽい言葉で語られがちな「ブランディング」だが、老舗が数百年かけて作り上げた圧倒的なブランドを知るには、自分の目で見て、体験した方がいい。

それはホテルに限らない。博物館かと思うようなフィレンツェのサンタマリア・ノヴェッラも見て欲しい。ミラノにも店はあるが、その差は愕然とするほどだ。エルメスやディオールなどのブランドもぜひ本拠地で見ることをお薦めする。銀座や青山にあれを再現するのは不可能で、それはブランドの歴史と本質を知ったことにはならない。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。