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なぜバーガーキングなのか:Anizine

ロバート・ツルッパゲとの対話』の後書きには、渋谷のセンター街・バーガーキングにて、と書いた。「なぜバーガーキングと書いたのか」にはちゃんとした理由がある。すべてのことには理由があるのだ。そうでないと、本を書くことはできない。

俺は東横線の沿線に生まれた。ターミナル駅としての渋谷は地方から遊びに来る人とは違って特別な場所ではなく「特別な場所」だった。初めてひとり暮らしを始めたのは中目黒、そこから10年間通っていた会社は銀座で、フリーになった仕事場は20年間変わらずに渋谷にいるから、日比谷線と連結した東横線から動いておらず、行動範囲の「へその緒」はずっと繋がっている。

横浜には山下公園や元町や本牧があり、何よりも精神的に外国と繋がっている港があった。「横浜生まれの人は神奈川県出身であると言わない」という地方の人のイジりがあるが、そんなのは当たり前だ。ミラノで生まれたヤツが「ロンバルディア州出身です」なんて言うのは一度も聞いたことがない。

なぜそれがわからないかと言えば、その人がミラノや横浜や神戸に生まれていないからだとしか言いようがない。ミラノで生まれるという概念はロンバルディアより大きく、神戸に生まれることは兵庫より大きいに決まっている。

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俺は若い頃、センター街をウロウロしていた。俺たちの多くは中学生くらいまでは横浜で遊ぶことになっていた。横浜には何でもあると思っていたからだ。しかし横浜にあるモノは歴史や伝統があると言えば聞こえはいいが、古くて野暮ったく、渋谷や新宿にはもっと新しくて下品なモノがあることに気づくのだ。

渋谷もまた、東京ではない。

俺はセンター街にあった「Arby's」などで、どこに発表するでもない文章を書いていた。もしも俺が本を出すことがあるとしたら、後書きには「センター街のArby'sにて」と書こうと思っていた。「鎌倉の自宅にて」なんて書くのが普通で、そんな騒がしい場所で文章なんて書けないだろうというくだらなさが必要だった。そして、渋谷という場所にいなければ決して思わなかったことが書かれているはずだからだ。

生粋の渋谷っ子である山口優さんがこう言ったことがある。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。