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失敗は1000人に伝わる。

俺たちの仕事はほぼプロデューサーからやってくる。知っている人もいれば、面識のない人もいる。恐ろしいことだけど、彼らがひとりも仕事を頼んでくれなかったら俺の生活はそこで終わる。それが20年以上続いているというのは、幸運なことだと思う。

同じプロデューサーと年に何度も仕事をすることはあまりないから、たまたまこれはあいつに頼もうと思い出してくれる人が途切れずにいる、という奇跡。年に一度思い出してくれる人が12人いると、月に1回は何かしらの仕事があることになる。24人なら2回だ。

同じプロデューサーとまた仕事ができる条件はただひとつ。失敗しないことだ。もちろん、すごくよかったと思ってもらうのが理想だけど、毎回120%の結果を出せるとも限らないから、最低でもやるべき100%は返す。

「成功は10人に伝わり、失敗は1000人に伝わる」という。

プロフェッショナルとして失敗することは恥ずかしく、もう次の仕事が来ないことを意味するし、それは他の1000人にも伝わっていると思った方がいい。

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昔、俺がデザイナーとしてあるカメラマンと仕事をするかどうかの打ち合わせをしていたとき、別の仕事のポジが現像されて事務所に届いたのを見た。「これを確認するからちょっと待って」と言われた。ライトテーブルの上にあったのは、あきらかに全部救いようのないアンダー露出のポジだった。

カメラマンは編集者かデザイナーに電話をかけて、「例の写真、僕の狙いでかなりアンダーにしたんですけどいいですよね」と話している。電話を切ってから、「失敗したから、狙いでごまかしちゃった」と笑いながら言う。俺はその人をまったく信用できなかったので、別の人と仕事をすることにした。

その数十年前のことを俺は今でも憶えているし、もし今その人と会っても仕事をする気はない。それ以前に、もうその人が写真を撮っているとは噂に聞かないから、1000人にいろんな失敗が知れ渡ったんだろうと思う。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。