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卒業アルバム:写真の部屋

人物を撮るときに、見せたい部分が見えているなら1灯だけのライティングにしたいと思っている。

人物のスタジオ・ライティングを教える人は、だいたい2灯もしくは3灯を基本にしているんだけど、太陽は『スターウォーズ』を除けばもちろんひとつだ。自然光を基準にするのは「見慣れた方法」に準ずるという王道で、実際には起きない環境を作り出したことで生まれる違和感という表現方法もあるが、それはあまり好きではない。

光源がひとつである太陽が作り出す「自然光」には実際には多くのバリエーションがあるから、そのすべてを再現するだけでも十分な幅がある。

スタジオでメインの光を設定したら、その影を反対からもうひとつの補助光で起こして、さらに輪郭を強めるリムライトか背景を照らすバックライトを入れるというのが人物ライティングの基本であると言われる。

でも俺はそれを「アメリカ人の卒業アルバム」だと感じてしまう。その例として『ツイン・ピークス』に出てくるローラ・パーマーの写真が頭に浮かんだが、検索してみるとあれはメインとバックライトの2灯っぽく、思い込みだった。でも卒業アルバム的な、と言えば雰囲気はわかってもらえるだろう。

1灯だけのライトでも、反対からレフを使う場合がある。厳密にはこれも光の方向をふたつ作ることになるので2灯と言えるかもしれない。ライティングは「光の環境」を作ることなので光りそのもののことではない。

たとえば天井からLEDのスポットライトが当たっている場合と、白熱球の間接照明があるときは、同じ1灯であっても光の質と部屋の状況はまるで違う。前者はそこに立っている人の顔に強い影ができるし、後者にはそれがない。

光が感情をあらわすのだとすれば、強い、弱い、冷たい、暖かいなどの感情表現に直結する。だからライティングに正解はなく、写したい感情表現をライティングが正確に後押しできているかの方が重要になる。

自然光は芸をするので、朝焼け、昼光、逆光、夕焼けなどが写真の中に取り込まれると、自分の能力にプラスアルファされる。でも白ホリのスタジオにストロボをひとつ用意したときには能力の限界を知ることになる。日常的な写真を撮っていて「僕はうまくなったんじゃないか」と思っている人は、ぜひ白ホリのスタジオで撮ってみることをオススメする。冷静に自己診断ができる人であれば、能力が半分以下になったと感じるはずだ。

自然光では「発見する能力」、スタジオでは「発明する能力」が必要だと言えばわかりやすいだろうか。スタジオで光を再現したり発明できるようになれば、自然光の発見はより敏感になり、容易になる。

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これは谷尻誠さんの建築事務所のために撮った写真。

いつもの黒バックだけど、写っていない白い壁の反射をほんの少し使っている。レフの効果は距離によるので、そこで「起こしすぎないように」気をつける。男性を撮るときはもっと右側の影を強くしてもいいんだけど、同じ条件で女性も撮るので、中間の強さに設定した。

黒バックで撮影するときは環境を説明するエレメントや光がなく、ライトは人物に当たっている部分だけを考えればいいから簡単そうに見えるけど白ホリと同じでやらなくてはならない細かいこともたくさんある。それはまた後ほど。

今日は無料で最後まで読めるようにしたけど、いつもこんなことを書いている定期購読マガジン「写真の部屋」。

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