デザインと写真:写真の部屋
2002年くらいにNikonのD100というカメラを買った。それまではフィルムのハッセルを使って趣味としてしか撮っていなかった写真だったが、D100を手に入れたことで毎日撮るようになった。
これはその頃、初めて仕事で使うために撮った写真。D100は600万画素というガラケーみたいなカメラ性能だったけど、プラスチックボディがゴキブリみたいにテッカテカにすり減るほど使った。シャッターの耐久回数の5倍くらいは撮ったと思う。
デザイナーにとって、デジタルカメラは撮影が終わってすぐに仕事に取りかかれるから便利だったし、写真を学ぶうえで、すぐに結果が見えるからムダがなかった。最初は自分がデザインする仕事にカメラマンを呼ぶスケジュールがないなどの理由で撮り始めた。アートディレクターが考えたビジュアルを同じ人がカタチにするんだからズレがないのが利点だった。
しかしそれは「最初に想定したエリア」をはみ出さないから何も面白くないとわかった。自分の中のアートディレクターが考えつかないことを撮らなくちゃと思うようになった。アートディレクターの要望は70%満たしておけばよくて、それ以外のアイデアはカメラマンが違う方向へ足す。それをひとりでできたら素晴らしいと思った。
まあ、一人二役のどっちが決めているかは境界線が引きにくいんだけど、多分デザインだけをやっていたとしたら考えなかったことができているから意味はあったと思う。他のアートディレクターに写真だけを渡す仕事で、意図と大きく違うトリミングや扱われ方をされたときにわかった。自分も今まで同じことをカメラマンから思われていたかもしれない、と。
デザイナーが理解する写真と、撮る人が考える写真はまったくの別ものだ。
床に置いたグラスに水が入っている。これだけのメモを渡されて撮るとしたら、具体的に選べるのは三つ。床の質感、グラスの質感、そこに作られた光、だ。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。