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ワールドワイドウェブ:Anizine

俺はある意味で、ソーシャルメディアに生かされてきたと言える。仕事の依頼が、「ずっと前からFacebookを見ていました」「Twitterをフォローしていました」という前書きで始まることがよくある。

俺たちの時代は人づてに紹介されることはあっても、まったく知らない人に仕事を頼むことはあまりなくて、だからあまり仕事仲間が広がらなかった。会社のOBであるアートディレクターが同じくOBのカメラマンと仕事をしていたりするのを見て、これだとずっと同じだなあと感じていた。

独立して自分の仕事場を作った頃にネットが広まり、知らない人と知り合うことが増えた。当時はまるで理解されなかったけど、今で言うフラッシュモブ的なこともした。「面白いことをしている人を見つけて知り合いになる」という知り合い方がポピュラーになった。平林監督と俺は掲示板などで次々にくだらないことをしていたんだけど、つい最近もその掲示板に出入りしていたんですよ、という人と会った。もう20年以上前のことだ。

mixiやTwitter、Facebookなどでどんどん知り合いが増えていった。それには感謝しかない。もし20代前半にソーシャルメディアがあったら俺の人生は激しく違っていたような気がする。

みんなそうだと思うけど、とにかく世界が狭かった。俺は若い頃の友だちとはほとんど連絡を取っていなかったし、酒を飲まないので飲み仲間ができることもなかったから、会社の同僚、仕事仲間、くらいしか関わる相手がいなかった。痛々しい失敗もやらかしていただろうけど、ソーシャルメディアがあればよかったと感じる。

今は誰とでもネットで出会うことができる。俺も多くの人と知り会ったけど、いつどうやってだったかはほとんど憶えていない。誰かと誰かが話しているのを見てその会話に加わったことから始まることもあるけど、それが誰だったかはさっぱり忘れてしまう。それでいいのだ。

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俺の本『ロバート・ツルッパゲとの対話』を読んでくれた人から感想が届く。あの本はわかりやすい試金石というか感覚のフィルターで、読んで面白いと思ってくれた人とは話が合うに決まっているのだ。その選別機を作れたことは思わぬ大きな収穫だった。写真やデザインのことなど何も書いていないけど、あれを読んでくれた人から仕事の依頼が来る。ああいうことを考えているヤツならこの仕事は向いているだろう、と前段をクリアできているから齟齬がない。

反対に面白くなかったという人とは徹底的に距離を置ける。表裏なんだけど、「合う人から仕事が来ること、合わない人から依頼が来ないこと」をこれほど効率よく選り分けられるとは思ってもみなかった。ネットも同様に、自分がしたいこととしたくないことをいつも書いているからその効果がある。最近(ここ10年くらい)では、まず「なぜこの仕事を俺に」という依頼はなくなった。昔は大御所の演出家と俺がなぜか仕事の候補に並べられていたりした。圧倒的な情報不足だったのだ。

誰かの何かのヒントになれば幸いなので、俺がネットで何に気をつけていたのかを簡単に書いておく。当然ここから先はメンバーのみへのサービスだ。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。