見出し画像

小説を書く:Anizine(無料記事)

結論から言うと、小説を書き始めています。

解説でも説教でもなく、あの小さい方のヤツです。小説。

『ロバート・ツルッパゲとの対話』の中に「本を出したい」と頑張っている人はたくさんいると思うけど、出した人しか出ていない、という意味のことを書きました。ちゃんと読んでいないので細部はうろ覚えですけど。

ソーシャルメディアでよくわかったのは「人は願望を多く語る」ということです。ああなりたい、こうしたい、そればかり言う。言ってしまうと、もうやり終えた気になるんです。

映画が公開されます。ライブをやります。という告知に対して「観たいです」「聴きに行きたいです」というリプライを書く人のいかに多いことか。それはやったあとで「素晴らしかったです」と感想を報告すればいいんですが、この手の人はスケジュール帳にその予定を書き込んでいない。行こうと思います、とリプライしたことで自分の中で何かが終わってしまっているんですね。

本を出したいと言っている人は原稿を完成させたんでしょうか。できたモノを編集者に読んでもらったんでしょうか。多分していない。書こうと思っただけでまだ書けていないんです。「いつか機会があったら書こうと思っている願望」の話を聞いてくれる暇人はいないのさ、とジョン・レノンは歌っていました。

初対面の相手に「これは僕が書いた本です」と手渡されるのと、「僕はいつか小説を書いて賞を獲りたいんです」と言っているふたりの間には大きな差がありますよね。イメージしてみてください。そこに国境はあるんです。

言葉にすることで目標に近づけるのだ、言霊が大事なのだ、というような自己啓発セミナー的な話ではなく、実績と願望は一緒にしたらいけません。

大人が何かをするときには、かならず結果が求められます。子供が砂遊びをすることには何の結果も求められませんけど、大人がするのであれば求められる。それで食っていけるのかと聞かれることもあるでしょう。食っていけないのだとすれば「趣味」ですからどんなことをやっていてもいいのですが、場面によって仕事と趣味を(おそらく無意識に)使い分ける人がいます。

「僕もブログに小説を書いているけど、あの人気作家の小説はまったくダメだね」と言う人がいるのです。これは趣味で話を始めながら、後半はベテラン編集者みたいなポジションに立っていますよね。

画像1

ソーシャルメディアの罪は、そういった「攻撃されないフワフワのアマチュア防具を着けているから他人が攻撃しにくいのに、自分は殺傷力のあるプロ用の武器を持っている人々」を生み出したことじゃないかと思っています。

結果を求められるという言い方がわかりにくければ「結果を信じてくれる他人が存在する」ではどうでしょうか。ここが子供と大人の違いであり、アマチュアとプロフェッショナルの差です。我々はほぼすべてのことをプロにやってもらって生きています。裁判所でも病院でも。

私は趣味で裁判長をしている、友だちの腹をメスで切っている、ってことはあるでしょうか。ないでしょう。少なくとも今選んだふたつの職種には国家資格が必要です。それを持っていないと仕事はできませんし、素人が「お前の判決にはセンスがない」「あなたの縫合は手際が悪かった」とも言いません。

だからみんな国家資格の有無という厳然とした線引きを意識し「私にはできるはずがない」と理解して真似事はしないんですが、そうじゃない職種に対しては激しい拡大解釈をして裁判長や医師の振りをします。

「自分のプロフェッションを信じてくれる他人の存在」が、ある種の免許代わりになります。

いくら小説家であると言っても、ミュージシャンであると言い張っても、実績がない人は事件を起こしてニュースになる時に「自称・ミュージシャン」と呼ばれてしまうのです。

ネットで何かを配信するのは自由にできますけど、それは一方的に押しつけることもできるので、たとえば「フォロワー数」といった数字のエビデンスなども重宝されます。質はともかく、最低限それだけの人数がその人のコンテンツを待っている、という証拠です。

他にも評価の方法はありますが、自分がその評価の無さをごまかしてしまうといくらでも好きなことが言えます。商業的な出版にしても、本を出しましたけどまったく売れませんでした、は、何もやっていないのと同じことです。結果を信じた編集者の目が間違っていたとも言えます。

という前置きをしながら、小説を書き始めている、と宣言するのは自分を追い詰めることになりますけど、追い詰められてナンボと俺の浪速の根性が言っているので仕方ありません。

『ロバート・ツルッパゲとの対話』を出したことで、出版に対する知識は6%ほどついたので不安はないです。何の根拠もなく始めたデザインや写真の仕事は他人から頼まれるようになったし、違うジャンルでも「学び方」は共通だと思っているのでなんとかなるでしょう。

ここから先は

66字

Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。