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引き返す意味:写真の部屋

Parisでいつも行くアンティークマーケットがある。クリニャンクール、ヴァンヴ、モントルイユ。それは週末がメインなので、平日はブリュッセルまで行ってジュドバル広場の蚤の市へ。あまり買うことはないけど、眺めているだけで楽しい。

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一番大きなクリニャンクールはガラクタのマーケットもあれば、高価で本格的なアートを扱う店もある。Parisに行く人は一度は訪れたことがあると思う。モントルイユは、路上の店と道路のゴミの区別ができないほどなだらかなグラデーションを描いている。日常で使う安いモノが売られている。ヴァンヴはその中間で、一番よく行く。もうそれぞれの店の主人の顔はだいたい把握しているし、見るモノも代わり映えがしない。でも楽しい。

この時は仕事の撮影が終わって、みんなで行った。「こんなモノがあった」などと言いながら端から端まで歩き、何度も往復する。ヴァンヴの駅を降り、蚤の市に着く前にカフェがあるので、そこで朝食。店のお姉さんのローブが格好良くて、真っ赤な口紅もお洒落だ。女性チームは早く食べ終わって買い物に行きたそうだったので店を出たが、俺は「あの人を撮らなくていいのか」と自問自答する。

写真はその日のその瞬間にしか撮れない。翌日はその人がもういないかもしれない。俺は皆が買い物をしている中、ひとりでカフェに引き返してその人を撮りに行った。ちょうど彼女が外のテーブルを片付けていたところで、俺を見てウィンクしてくれた。「ああ、さっきのお兄さん」という感じだ。その日は寒く、お姉さんはあのローブを着ていた。

「写真を撮りたいんだけど」と言って、返ってくる言葉はいくつかしかない。撮られたくない人ははっきりとNoを言うし、よければオッケーだ。その中に「私を撮るの」というのが多い。自分は撮るに値するのか、という謙遜でもある。その次に「なぜ」と聞かれることもワンセットだ。そういうときは「美しいので撮りたい」と言う。それで撮ったのが次の写真。

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写真の部屋

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人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。