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今回は無料記事:写真の部屋

「写真を撮る人は映画をたくさん観るといい」と薦めています。

俺は年間およそ300本くらいの映画を観ていますが、その時に大事なのは、フレーミングや映像を意識せずに参考にすることです。矛盾しているように聞こえますが、ここでピンと来ないといけません。

映像は、静止画であろうと動画であろうと、「琴線」に触れないといけません。だから自分の琴線がどこにあるのかを膨大な数のサンプルにぶつけることで試すのです。化粧品のアレルギーパッチテストに似ているかもしれませんね。

それさえわかれば、どんな名所・旧跡であろうと、自分の気持ちが反応しないモノを撮らずに済みます。わかりやすい例で言うと、ピサの斜塔があります。あれは曲がっているので面白い。観光客はみんな背景の斜塔を手で支えるようなポーズで記念写真を撮っています。

これは当然、「表現としての写真」ではありません。誰でも思いつくし、人がやっていることを真似しているからです。

斜塔の横には美しいドゥオモがありますし、近くには楽しげな店があり、自然もあります。でも「斜塔を支える写真」を撮り終わると、観光客は写真を撮ることをやめてしまうのです。目立つモノがあるから他のモノが見えなくなる、という状況は往々にしてあります。

だから自分しか持っていない琴線を「表現」するなら、斜塔だけを見ていてはいけません。城もシャトーですからダメです。

映画には写真にはない、音楽と時間があります。ここが勉強になるのです。物語が時間とともに進んでいくと、映画の世界に無意識に没頭していく。東京のマンションの部屋にいても宇宙船の中に感情移入できるし、フィレンツェの街角にも気持ちは飛べるのです。

そして、「ああ、自分はこういう感情の動き方で世界を見ているんだな」とわかったら、その眼で写真を撮ればいいのです。決して、滝をスローシャッターで撮ることではないはずです。

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ちなみに俺はピサの斜塔を、真っ直ぐな角度から撮りました。あいつが持っている特徴を台無しにしてやりましたよ。

映画から構図や映像を真似てもほとんど勉強になりません。それは映画のカメラマン(DP)がディレクションしたすべての技術的エレメントが理解できない限りは、再現できないからです。映画は、ただいい映画だと思って観るのがいいです。これは本でも演劇でも同じです。

カメラ屋に行くよりも、映画や演劇を観た方が写真は巧くなります。

(写真の部屋では、いつもこういうことを書いています)

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人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。