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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2023年9月の記事一覧

札束を燃やして:Anizine(無料記事)

「鰯の頭も信心から」という言葉は、他人から見たら無意味なものでも信じる気持ちがあれば尊く感じるものだ、という揶揄を含んだ意味です。あなたが拝んでいるのはイワシの頭じゃないですか、という言葉は彼らには届きません。「あいつらはこのイワシの素晴らしさを理解しない愚か者だ」と教祖から教え込まれているからです。 私が思い出すのは1980年代の『豊田商事事件』です。特に老後の生活に不安を抱える高齢者を狙って存在しない金を売っていた地金取引詐欺で、摘発され返金運動が起きて、会長がテレビカ

ひとり親家庭:Anizine

折に触れて、このnoteの購読料から些少ながら寄付をしています。本来なら国がするべきことだと思うのですが、実際に生活が困難な貧困家庭が増えていて支援が足りないのならそうも言ってられません。我々がこどもの頃「ご飯が食べられないこども」と聞いて思い浮かぶのはニュースで見るアフリカなどの映像でした。しかし最近になって日本のひとり親家庭のこどもたちが直面している事態を知るにつれ、ただごとではないと感じています。 貧困家庭を支援する団体はいくつかありますが、今回はこちらへ。

バッティング練習:Anizine

比喩業界において、大谷翔平選手はとても便利な存在です。 わかりやすく「世界の頂点」にいるからです。MLBでインタビューをすれば「彼が球界最高のプレイヤーだ」と答える現役選手はたくさんいます。「家族に頼まれたから」と言って相手チームの監督にサインをねだられたり、対戦している敵チームの観客席から「ショウヘイ、うちのチームに来い」とコールをされた選手などは過去に存在しなかったでしょう。 野茂、イチロー、松井などは極めて日本的な選手でした。物静かで求道的、サッカーでもないのに滅私

中年の三ぶる:Anizine(無料記事)

おじさんが姑息なのは「おじさんなのに、こんなことしちゃってる俺」と解説するところで、そのエクスキュージングな小狡い態度こそが若者から嫌われる原因です。振る舞いを若ぶる、説教で荒ぶる、下腹ぶるぶる、この『三ぶる』が嫌われるのです。しかし我々も好きでおじさんになったわけではありません。不本意でジクジたる思いなのです。しかしながら盗人にも三分の理というか、理想の姿はあります。それは海中に漂うワカメのように流れに身を任せてユラユラし続けることです。 若者が立てる波に抗ったりしてはい

中年の現状維持バイアス:Anizine

昨夜はNew Yorkにいる平林監督とTwitter(現X)のSpacesで話しました。ガゴシアンで行われる展覧会のオープニングに呼ばれたようです。ラリー・ガゴシアンと言えば世界のアートに最も影響力のある人物、と言われていますが、彼らに代表される巨大アートビジネスは「実力の世界」ですから、そういった勝負の戦場を垣間見ることはとても有意義です。 アートの世界は「有名な企業の仕事をした」「流行った」などというビジネス的な基準とは違うチカラで動いています。そこにあるのは個人だけで

回想するオヤジたち:Anizine

「ソーシャルメディアで一番ウザいのは、オヤジの回想だ」 フランシス・ベーコン というわけで、私の最初のデザインの師匠のことを思い出したので回想してみようと思います。何も実務経験がなく、上下左右もわからずに入った港区の弱小プロダクションにNさんはいました。初めて出会うアートディレクターという人種です。優しく気難しく、ギャグは古墳から出土する錆びた青銅ナイフくらいの切れ味の人でした。兄貴的な人柄としては好きだったのですがとにかく謎が多い人物で、会社の仕事以外の闇営業ばかりしてい

あまりにもリアルな:Anizine

ある大手の広告代理店に呼び出される、という夢を見ました。他人の夢の話は面白くないというのが持論なのですが、30年以上生きてきて、過去最高にリアルな夢だったのでここに記します。自分のメモのために。 電話があり、内容は詳しく言えないがすぐに汐留に来て欲しいと言われました。電話を切る寸前に「かなりマズいことになっているんで」とつぶやかれたので不吉な予感がします。すばやくタクシーに乗り、名前は伏せますが大手の広告代理店のロビーに着くと、知り合いのクリエイティブディレクターが待ってい

招かれざる者のハンドサイン:Anizine

誰かがパーティをやっている写真をソーシャルメディアなどで見たとき「呼ばれてなーい!」とコメントしてしまう人は悲しいですね、という話はここでも何度もしました。結論はシンプルで「その人を呼ばない会が極秘に催された」というだけです。その微妙すぎる気まずい空気を読まずに「呼ばれてなーい!」と、高らか正義にシャウトしてしまうような人だから、誰からも呼ばれなくなるのでしょう。 若い頃に、そういう痛々しい場面をいくつも見ました。 まず「好きな人だけを集めてパーティがしたい」ということを

耳に入ってくる:Anizine

通りすがりや喫茶店での会話がふと聞こえてきて、驚くことがあります。何か面白いことを言おうとしているのではなく、ただ言ってる。今日はその中でも珠玉の一言があったので定期購読メンバーに4つ、お伝えいたします。 ◎タクシー乗り場、ふたりの30代男性が待っていました。強制的にヒマでやることがない場というのは、無駄な一言を培養させるには最高の土壌です。 「あのさ、しばらく使ってないエアコンから最初に出てくる風って、昆布の匂いがするよな」 これは自分の「無駄会話」基準の中でも白眉で

芸能人のブログ:Anizine

なぜ芸能人は、ご飯を食べたり買い物をしているだけでフォロワーが増えるのでしょう。真面目に考えたことがありますか。私はあります。ヒマなのとコンテンツを作るのが仕事だからです。世の中にあるすべてのコンテンツには競争力というものが働きます。名もない人は、いかに目立つかともがき、ブルーオーシャンどころか海水もない場所に、夜景評論家のようにトリッキーな権威を作り出そうとしているのが現状です。 一番厳しいレッドオーシャンは何かと言えば「何でもないこと」をコンテンツにすることですが、それ

裏切る人、裏切らない人:Anizine

繊細な内容なので、定期購読メンバーのみで。

ストレスとは:Anizine

私は日常でほぼストレスを感じることがありません。なぜかと言うと、ストレスを避けることに全力をかけているからです。まず、皆がどんなストレスを感じているかを調べてみると、いくつかのパターンに分類されることがわかります。特に新しいことは言わないのでメモったりしないでくださいよ。 「自分は認められていない」 「世の中のダメな出来事に腹が立つ」 「うまくいっている人を嫉む」 「ストレスがなぜそこにあるかを検証しない」 の四本です。ンガグゴ。

長野の蕎麦屋:Anizine

今日は、久しぶりの友人と会って話をしました。私も一度会ったことがあるのですが、彼はかなり長くつきあった女性と別れて今は一人暮らし。しばらくは忙しく仕事に没頭していたようなのですが、やるべき大きなプロジェクトが一段落した今年の夏、ふと思い出してずっと連絡をしていなかった彼女に「最近どうしてる」とメッセージを送ったと言います。 どんな理由でふたりの暮らしが終わったのかは聞いていませんが、彼女から返ってきたメールはいつもと変わらない関係であるかのような親密さだったそうです。懐かし

どこに行ったんでしょうね:Anizine

俗に言う、9月の始まり。断末魔のような蝉の声が、いつしか鈴虫の奏でるメロディに変わり、その音楽が鼓膜に届いた瞬間に私を取り巻く空気の温度が少し下がったような気がする。 私という蝉はすでに40回以上の夏を迎えたことになるが、セイジャクゼミという種類でもあるかのように、大きな声で鳴いた記憶がない。そんな私が一度だけ仕事の現場で大きな声を上げてしまったことがあるので、9月の始まりの日を記念してその日の出来事を書いてみようと思う。 たいした話ではない、たいした話ではないのにここか