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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2023年7月の記事一覧

あなたは貧乏ね:博士の普通の愛情

僕はお金の計算が苦手だ。その理由はいくつか思い当たる。お金に対する感覚は一生変わらないものだと思っているから、変えようとしても無理だと諦めている。みんなお金についての勉強を必要に迫られてするけれど、本を数冊読んだくらいではなかなか感覚までは変わらない。 確かに勉強すれば知識は増えるだろう。でもそれってスポーツ観戦に行き、だんだんルールやプレイの意味がわかっていくことに近い気がする。本当はわかった気になっているだけなのに。でも、スポーツの本質は、ボールを打った感触とか、ジャン

ふたりのラジオ:博士の普通の愛情

「難しいクイズが出せる人かな」 ケンタに好きなタイプを聞くと、不思議な言葉が返ってきた。今までにも同じ質問をしたことは何度かあるけど、こんな答えをした人は初めてだった。 「ケンタってやっぱり変わってるね」 「普通だと思うけどな。でも普通って自分が決めることじゃないか」 「うん。かなり変人」 「変な人、と、変人ってまるで違うよね。くらうダメージというか」 「でも、なんでクイズを出せる人が好きなの」 「クイズっていうのは喩えなんだけどさ、こちらが考えたこともない質問をされて考

燃えたラブレター(後編):博士の普通の愛情

こどもの頃、小さいというのは何にしても引け目があった。小学校高学年にもなると女子の方が成長が早く、大きくなっている。ユマという女の子がいた。珍しい苗字で細くて背の高い、ポパイに出てくるオリーブのような子だった。声も好きで、彼女が教科書を朗読するときは目をつぶって聴くほどだった。 その珍しい苗字を数十年後に聞いたのがFMのラジオ番組だった。ユマの声がほとんど変わっていなかったことに驚く。六年生のとき、僕は帰り道でユマに待ち伏せされ、ラブレターをもらった。 「卒業する前にこれ

燃えたラブレター(前編):博士の普通の愛情(無料記事)

さっきコーヒーを飲んでいたカフェではFMラジオがかかっていた。聞いたことがあるパーソナリティの名前。よく知らないが今の若者はナビゲーターと呼ぶのだろうか。ワニの一種みたいだよなと思いながら70年代のアメリカンポップスを聴く。曲を紹介する声は僕を小学生の時代に引き戻した。彼女は同級生なのだ。 僕は家庭の事情で4つの小学校に通った経験がある。つまり3回転校していることになる。転校というのはしたことがない人にはわからないと思うのだが、やってみるとなかなか面白い。急にクラスの全員が

トートバッグ(後編):博士の普通の愛情

サヤカは地元の市役所に就職してから数年した頃、一人暮らしがしたくて上京し今の会社に勤めることになった。あまり派手なことが好きな性格ではないが、毎日農家の話ばかり聞かされていたのと比べればだいぶ刺激がある。東京の飲食業界で働く人々は地元の農場や牧場にいたおじさんたちとは種類が違っていた。地方にはいない人種が面白くて人間観察をしていたが、彼らにはいくつかのパターンしかないことがすぐにわかった。 サヤカの会社はレストランチェーンを自社で経営したり、関係のある会社が出店するレストラ