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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2023年3月の記事一覧

タクヤの同窓会:博士の普通の愛情

銀座の大きな中華料理店で50代くらいの人々が同窓会をしていた。広い店内の角の方に15人くらいが集まっていたので、近い席の私には彼らの話が筒抜けだった。そこで語られることは、どこにでもあるような近況報告、病気の話、亡くなった担任や級友の話などと続いていく。 おそらく都内の高校の同窓会だったのだろうが、その中に当時クラスの中心人物だったと思われる「タクヤ」という男性がいた。最初はそんな彼の輝かしい時代の話をしていた。女子からの人気もあったようで数人に取り囲まれていたが、周囲の男

来たるべき何かへの跳躍:博士の普通の愛情

ある友人が「女性よりも女性のパンツが好き」と言うのを聞いたことがある。セミより抜け殻を集めるのが好きなようなモノか。多分違う気がするな。 女性が服を着ている状態、下着だけの状態、全裸。そういう順番の中で、過渡期っちゃんとも言うべき「下着の段階」に興味を持つのは不思議じゃない。 服を着ている状態が社会的、全裸が原始的だとすれば、下着には洗練から原始へ、逆の高度経済成長とか産業革命じみた「来たるべき何かへの跳躍」の魅力がある。 女性と一つの部屋にいて、彼女はコートを着ている

タダシという男:博士の普通の愛情

「今まで、自分が嫉妬深い性格だと自覚したことはありませんでした。いい歳をしてこんなことをお話するのも情けないんですが」 そう言ってカウンセラーの前に座っているのは白石和夫、43歳。オフィス事務機メーカーの営業である彼は、数日前から体調に異変を感じていた。医師である友人に相談したところ、それは精神的な問題ではないかと言われてここに来た。 友人には家庭内のことを知られたくなかったので、できるだけ焦点の定まらない説明をしたつもりだったのだが、彼にはすべてお見通しだったようだ。

ユミと海に行きました:博士の普通の愛情

音楽って不思議ですね。それを聴いていたときの映像が目の前にパッと広がる。そんな誰もが思いつきそうに陳腐なことを頭に浮かべながらラジオのスイッチを切った。一人の部屋。 しばらく前まではユミが一緒にいたんだけど、何も言わずにいなくなった。僕が好きな映画のひとつに『時代屋の女房』があるが、今観ても夏目雅子さんの美しさに目を見張る。主人公である夏目雅子さんはどこかからやってきて、どこかに消えていく。渡瀬恒彦さんはそれに翻弄されるんだけど、あの気持ちはよくわかる。人の気持ちはいつまで