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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2022年7月の記事一覧

白いワンピース:博士の普通の愛情

「つきあっていた人のアカウントを見つけたんだ」 「Facebookで」 「うん」 「俺が会ったことがある、あの人かな」 「いや、そのひとり前だな。お前は知らないと思う」 僕は、よかったことと悪かったことをちょうど半分ずつ思い出していた。 「結婚して子供もいたよ」 「そうだろうな。俺たちはもう40過ぎだから」 「うん。それはわかってた」 「別れた彼女でも、あまりいい気分じゃないか」 「おかしいけどな、俺も結婚しているのに」 「誰だってそんなもんだろ」 数日前、それほど近い

お医者さんごっこ:博士の普通の愛情

夕飯を終えた頃、インターホンが鳴った。モニタには同じ団地に住むリカコちゃんの母親が写っている。 「こんばんは。ご無沙汰しています」 僕は小学校三年生のタカノリと二人で暮らしているから、保護者の集まりにはよく顔を出している。リカコちゃんのお母さんとは「ママ友」だ。 「あの、今日の夕方リカコがこちらにお邪魔していたようで」 「そうでしたか。僕はついさっき仕事から戻ったので知りませんでした」 責めるような顔つきをしている気がした。リビングルームの奥からタカノリが様子をうかが

ミーちゃん猫耳事件:博士の普通の愛情

「パートナーに求める条件って何かな」 「えーと、難しいな。何個か言っていい」 「だめ。ひとつだけ」 「じゃあ、領域を守れる人」 僕はそういう質問をするのが好きなんだけど、この答えは初めて聞いた。彼女の説明によれば、個人が持っている秘密が守れているほど領域に価値があるというのだ。よくわからなかったのでさらに聞いてみた。 「それはどういうこと」 「たとえば、誰かと一緒に食事に行ったとき、別に秘密にする必要がなかったとしてもそれを周囲に言いふらす人は苦手。その場を共有し

マディソン郡以外の郡:博士の普通の愛情

『マディソン郡の橋』という小説がある。映画にもなったし、ラブストーリーの傑作だという人もいる。僕はまったくそう思わないんだけど、それは誰に感情移入するかということに関わってくるからだろう。物語は呆れるくらい単純で、今ならTwitterの140字の投稿に収まってしまうかもしれないと思えるほどだ。 まず、マディソン郡。アメリカの地理に疎い人でも、NYやLAみたいな都市ではなく舞台は田舎なんだろうということがわかる。そこに住む平凡な主婦。主婦なんて大多数は平凡だし、もっと言うと人