お医者さんごっこ:博士の普通の愛情
夕飯を終えた頃、インターホンが鳴った。モニタには同じ団地に住むリカコちゃんの母親が写っている。
「こんばんは。ご無沙汰しています」
僕は小学校三年生のタカノリと二人で暮らしているから、保護者の集まりにはよく顔を出している。リカコちゃんのお母さんとは「ママ友」だ。
「あの、今日の夕方リカコがこちらにお邪魔していたようで」
「そうでしたか。僕はついさっき仕事から戻ったので知りませんでした」
責めるような顔つきをしている気がした。リビングルームの奥からタカノリが様子をうかがっていることはわかった。
「タカノリとリカコちゃんが喧嘩でもしましたか」
「ちょっと、外へ」
お母さんもタカノリが部屋の奥からこちらを見ていることに気づいたようだった。僕はサンダルを履いて玄関の外に出てエレベーターホールに向かう。
「言いにくいんですが、今日はタカノリくんと何をして遊んでいたの、と聞いたら『お医者さんごっこ』だって言うんです」
「はあ」
「それをタカノリくんがスマホで撮影していたというので心配になって」
「本当ですか。何をしてるんだあいつは」
「できれば、そのスマホの映像を確認させていただけないでしょうか」
緊急の連絡のためにタカノリにはスマホを渡してある。部屋に戻ってタカノリをにらみつけ、スマホを取り上げた。スマホを与えるには子供過ぎたのかもな、と思った。
リカコは近所のおばあちゃんの家に遊びに行っているので、私の家で見ましょう、とお母さんが言う。エレベーターに乗って3階下に行く。この家に父親はいない。シングルマザーという似た境遇なので、ママ友の中でも我々は仲がよかったのだ。
「じゃあ、見てみますね」
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。