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ミーちゃん猫耳事件:博士の普通の愛情

「パートナーに求める条件って何かな」

「えーと、難しいな。何個か言っていい」

「だめ。ひとつだけ」

「じゃあ、領域を守れる人」

僕はそういう質問をするのが好きなんだけど、この答えは初めて聞いた。彼女の説明によれば、個人が持っている秘密が守れているほど領域に価値があるというのだ。よくわからなかったのでさらに聞いてみた。

「それはどういうこと」

「たとえば、誰かと一緒に食事に行ったとき、別に秘密にする必要がなかったとしてもそれを周囲に言いふらす人は苦手。その場を共有した時間の価値が下がる」

「なるほど、ちょっとわかるような気がする」

「だから恋人でも、ふたりでいるときのことを他人に言う人はイヤなの」

「ああ、何でも話す人っているね」

「隠す必要はないのよ。でもコクーンっていうのかな、ふたりが繭の中にいるような心地よさを感じた後に、そこで起きたことを話されてしまうとね」

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「わかってきた。僕の知り合いにも一緒にいる人と写真を撮って、どれだけ有名な人と有名な店に行ったかばかり言っている人がいるよ」

「まあ、それはかなり田舎臭くて駄目すぎる例だけど、似た感じ」

「領域じゃなくて、名の知れた人と一緒にいる自分ってことしかアピールしていないんだよね」

「うん。私、昔暮らしていた彼がいたの。自分もまだ若かったからこういうことがわかってなかった。そこで起きたのが『ミーちゃん猫耳事件』なの」

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恋愛に関する、ごく普通の読み物です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。