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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2022年5月の記事一覧

24時間営業の鍵屋:博士の普通の愛情

夜中、僕の家から数分のところに住んでいるモデルの女性からLINEが来た。「お願いがあるの」と書かれている。 「高橋さん、こんな時間にごめんね。さっき玄関の前で物音がした気がして怖くなったの。申し訳ないんだけど今家にいたら、私の家まで来てくれないかな」 時計を見ると24時半だった。こんな時間に恋人でもない男が女性の家に行くなんて誤解を生みそうだけど、本当に怖がっている雰囲気だったので行くことにした。4桁の番号を彼女から聞いたので、厳重な3段階のオートロックのエントランスを通

ブラック企業告発:博士の普通の愛情

「ねえ、これってうちの会社のことじゃないかな」 深夜の残業中、3年先輩の石田がラップトップを持ってきてこう言った。 『ブラック企業告発サイト』と書かれたそのサイトのあるページには、明らかにうちの会社の副社長と思われるイニシャルで、問題が書き込まれていた。 「本当だ。これは臨海地区の入札のことも載ってるから、うちですね」 「大丈夫かなあ、こんなことまで書かれちゃって」 「もしかしたら週刊誌とかが食いつくかもしれないですね」 「加納も、このサイトは監視しておいてくれよ」 「

フードコートにて:博士の普通の愛情

友人夫婦と食事に行った。彼らは6歳の息子を連れている。赤ちゃんの時から会っていなかったので、こどもの成長の早さに驚いた。ショッピングモールのフードコートのような場所。連休なので家族連れで一杯だ。 「俺、ちょっとトイレに行ってくる」 「私も行きたい。悪いけど、いいかな」 僕は、構わないよ、と答え、こどもとふたりになった。 「あのね、ぼくはミニカーが好きなの」 「そうか、今日は持って来てるの」 「うん。これはパトカー」 こどもはポーチの中から大事そうにパトカーを取り出す。