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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2021年4月の記事一覧

目黒川のスーツケース:博士の普通の愛情

ユリとケンタと3人で中目黒を散歩していた。桜が終わったので人も少ない。何気なく川を見下ろすと、旅行用のスーツケースがぷかぷか流れていた。 ケンタが、「何でも川に捨てるやつって迷惑だよな」と言う。俺もそう思ったが、ユリはしばらくそれを眺めていた。最近できたと思われる川沿いのカフェに入る。中目黒という街はお洒落だと勘違いされているが、本当の良さは野暮ったいところにある。渋谷と目黒に挟まれている立地と言えば聞こえはいいけど、大橋と大鳥神社が持つ地味な雰囲気を、代官山の裾野というイ

青いワンピース:博士の普通の愛情

当時、僕は渋谷にある服飾専門学校に通っていた。服に興味を持ったのは好きだったミュージシャンがデザイナーと対談している記事を雑誌で読んだからだ。「俺は彼の音楽に共鳴したから、ステージ衣装を作らせろってメッセージを送りつけたんだ」そんなことが書かれていた記憶がある。単純な高校生の僕はすごくかっこいいと思った。自分もそんなことをしてみたいと夢見た。 実際に入学してみるとバイトと課題に明け暮れ、かっこいいことなんて何もなかった。周りの友だちはお洒落をして「いつかパリコレに行くんだ」

男女の差:博士の普通の愛情(無料記事)

映画『夢売るふたり』を観た。 繁盛する居酒屋を経営している松たかこさんと阿部サダヲさんの夫婦は、ある日、火事で店を失ってしまう。なんとかして店を再建したいが資金はなし。 そこで夫である阿部サダヲさんが結婚詐欺をして開店資金を貯めるという、ある種、荒唐無稽なコメディに見える。途中までは。 監督の西川美和さんは、我々男性には想像もつかない女性を描く。どんな男性監督があんなにリアルなシーンを撮れるだろうか(いくつかあるのでゼヒご覧ください)。 リアルであるということは文字通