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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2021年1月の記事一覧

1ダースの消毒液:博士の普通の愛情

休日の午後。玄関のインターホンが鳴り、カメラには宅配便の配達員が映っていた。届くものに心当たりはない。大きな段ボールに貼られた伝票の品名のところには「マスク・消毒液」と書かれていた。 差出人を見て、時間が戻るのを感じた。そこにはある時期をともにした女性の名前があった。彼女は病院に勤めていた。よくある話なのかどうかはわからないけど、僕が入院していたときに担当してくれていた看護師だった。僕らは患者と看護師として出会ったのだ。 それまでは健康さだけを売り物にしていた僕が、体調が

筆箱の中の鉛筆:博士の普通の愛情

「もう年賀状という風習も廃れつつある」と感じた。元旦にいそいそと郵便受けを見に行き、まだ届いていないとがっかりした、あの子ども時代の高揚感はまるでない。 会社勤めをしていた頃は自分から500枚くらいは出していたし、それと同じくらいの年賀状はポストに届いていたが、最近は知人からのほんの数枚になった。あれはすべて仕事の書類と同じような存在であって、悲しいことに「手紙」のたぐいではなかったのだと思い知らされた。 その中で僕の心が揺れる年賀状が、毎年、一葉だけある。今から20年ほ

名前を呼ぶ:博士の普通の愛情

自分のルールとして、決めていることがある。 たとえばマリちゃんという友人がいるとして、そのマリちゃんが結婚したあとからは「マリさん」と呼ぶことにしている。 リアルな場でもSNSでも、誰かの名前を呼ぶときには必要以上に馴れ馴れしくなったりしないように気をつけている。1対1で、密室で話しているわけじゃないから。SNSのコメントを見ていると「マリは、昔からそういうところあるよね」みたいに呼び捨てにする男性がいる。フレンドリーなつもりなのかもしれないけど、もし俺がマリさんの旦那や

モテの独占:博士の普通の愛情

あまりないことなんだけど、昨日は恋愛の話をした。 とても素敵な女性なのにかなり長い間、彼氏がいないのだという。「いい人がいたら紹介して欲しい」と言われても、いつもこういう時に思うのが、仕事ができて経済力があって性格のいい見た目のいい独身男はいない、ということだ。 仕事ができなくて経済力がなくて性格がいいというほどでもない、という男性はたくさんいるだろう。確実にいるのだ。 彼女が求める男性の条件は「クリエイティブな才能や、生き方を尊敬できる人」らしいが、その条件を満たす人

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あるベテラン俳優の撮影をしたときのこと。インタビューがある場合は、その人の話を聞いて、話している表情や雰囲気を知ったあとに撮影することにしているんですが、その日はどうしても別の撮影に行かなければいけなかったので、先に撮らせてもらうことにしました。 少しだけ話してから撮影。撮り終わって、失礼ですがインタビューを聞かずに失礼します、と伝えると、その俳優は「これからすごく面白い話をしようと思っていたのにな」とニッコリして言います。本当はもちろんお話を聞きたかったんですが、そのいた