外資系企業が日本のアニメスタジオを買収できない理由
先日、シンガポールの投資会社が映像制作大手の東北新社にTOBを提案したという報道が話題になりました。
もし、日本のアニメ市場の成長率が本当に高いのなら、外資系企業が日本のアニメスタジオを買収してもいいはずです。
しかし実際に「外資系企業がアニメスタジオを買収した」という報道を見かけることは、ほとんどありません。
いったいなぜ、外資系企業はアニメスタジオを買収できないのでしょうか?
そもそも、外資系企業はアニメスタジオを買収したいのでしょうか?
大前提:アニメスタジオは未上場
まず前提として、日本のアニメスタジオのほとんどは未上場です。
そのため、株式市場で買収を仕掛けることはできません。
そうなると、外資系企業がアニメスタジオを買収する場合は、実際にアニメスタジオに赴き、英語を喋れない社長とコミュニケーションを取りながら、企業価値を計算し、その上でリスクとリターンのバランスを探る必要があります。
この中でも「日本語」が高いハードルになっているのは言うまでもありません。
日本のアニメ文化は未知
実際にアニメスタジオに赴くと言っても、その文化感は未知の領域です。
一般的なスタートアップやベンチャーとは異なり、アニメスタジオの多くはビジネス的な野心が薄く、知識も乏しいです。
その一方で、アニメ制作に対して一定の熱量を持っていることから、理屈では説明できない何かが漂っています。
それが希望なのか閉塞感なのかはわかりませんが、外資系企業は、日本のアニメ文化を理解しなければ買収を提案することはできないでしょう。
アニメは超リスキーなビジネスモデル
そもそもアニメは、超リスキーなビジネスモデルです。
というのも、どんな作品がヒットするかがよくわからないし、クリエイターとしても「作りたいもの」があるはずで、それが「売れる作品」と逆行することもあるからです。
イメージで言えば、10回作って1つヒットすればOK。
アニメ1作品につき、最低でも2億円は必要なことから、10回作るとなると20億は必要になります。
また、アニメを1つ作るのに1年以上の制作期間が必要です。
つまり、アニメビジネスはお金も時間もかかる非効率的なビジネスモデルであることがわかります。
だから、アニメ業界ではリスク分散のために製作委員会方式が一般的なのです。
世界的なヒットが見込めないから
例えば『鬼滅の刃』やスタジオジブリ作品は、100億円以上のメガヒットを叩き出すことが珍しくありません。
一方で、そのほかアニメ映画の興収は5億円のヒットを叩き出せれば十分で、大抵は数千万円から3億円程度でしょう。
では、実際に投資会社がアニメスタジオで儲けを出そうと思ったら、どれくらいのヒットが必要なのでしょうか。
投資会社は、資本を増やすことが最優先事項であり、それをアニメに投下する義務はありません。
そのほかITビジネスよりも高いリターンが見込めるようでなければ、アニメビジネスに手を出す必要がないのです。
そう考えると、アニメ映画であれば100億円以上のヒットは欲しいところですが、先ほども述べた通り、それは極めて難しい現状があります。
買収してもアニメーターを獲得できない
アニメスタジオを買収したとしても、アニメーターを獲得できるわけではありません。
なぜなら、アニメスタジオのほとんどは、外注を駆使することで、アニメを制作しているためです。正社員雇用でアニメーターを大量に確保できているアニメスタジオは、数えるほどしかありません。
テクノロジーの世界では、優秀なエンジニアを獲得するために、企業を買収するケースがしょっちゅうです。
しかし、アニメ業界の場合、わざわざアニメスタジオを買収しても、アニメーターを獲得できるわけではありません。
買収するぐらいなら、ゼロから起業して外注を駆使してアニメを制作した方がいいのです。
アニメは何も生み出さない
テクノロジーとは違い、アニメが世界を大きく変えることはなく、何か新しいものが生まれるわけでもありません。付加価値があまり多くないのです。
そう考えると、アニメビジネスで莫大な利益を上げるのは極めて難しいと思われます。
社会の変化が激しくなるにつれて、宗教を始めとした物語に依存する人が増えると言われていますが、アニメや萌えキャラもその1つになるでしょう。
この場合、アニメと競合するのは宗教や神ということになり、これは極めて熾烈な競争になると考えられます。
そういう意味でも、アニメビジネスは長期的に見てリスクが高い割に、テクノロジーほどのリターンが得られません。そのために、外資系企業がアニメスタジオを買収するインセンティブが弱くなっているのです。
アニメスタジオにはIPがない
ほとんどのアニメスタジオはIPを保有していません。
実際にIPを保有しているのは、出版社や製作委員会なので、アニメスタジオを買収できても、ライセンスを獲得できるわけではないのです。
現在、ライセンスは数百億円規模で取引されることが増えており、良質なIPを保有することには大きなメリットがあります。
特に日本の「マリオ」や「ポケモン」は、口から手が出るほど欲しいIPです。
もちろんスタジオジブリやスタジオカラーが保有するIPは魅力的ですが、これが世界のキャラクタービジネスでウケる保証はなく、そういう意味でもアニメスタジオの買収はインセンティブが弱いのです。
もし外資系企業がアニメスタジオを買収するなら
少なくとも、零細企業を買収することはないでしょう。下流に行けば行くほど、人材の流動性が高いからです。
外資系企業がアニメスタジオを買収するなら、上流に位置するアニメスタジオが狙い目ということになるでしょう。
具体的には、東映アニメーションやバンダイナムコなどです。
また、TRIGGERや京都アニメーションのようなブランド力のあるアニメスタジオに関しては、買収ではなく、業務提携契約を結ぶのがベターだと言えます。
これであれば、リスクをある程度回避しつつ、リターンを享受することが可能だからです。それに、アニメスタジオの独自性も保たれます。
【さいごに】でも、外資系企業は虎視眈々と狙う
ここまで、外資系企業がアニメスタジオを買収しない理由を解説してきました。
とはいえ、日本のアニメスタジオに大きなポテンシャルがあるのは間違いなく、チャンスがあれば買収に乗り出そうとする企業も少なくないでしょう。
特にAppleやWindowsのように、ハードはあるけど中身(コンテンツ)がない企業にとって、日本のアニメは魅力的なコンテンツです。
個人的にAppleに関しては、Apple TVの強化のために、日本のアニメコンテンツの獲得に動くのではないかと思うのですが、ここら辺は一旦整理してから記事にしたいと思います。
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