アニメのてにをは、基礎表現(1の1)~作用と反作用(前編)
ジブリアニメの基本的表現についてお話します。
これは、その第一回。
最初のテーマは『作用と反作用』です。
作用と反作用?
抽象的に説明するよりも、作品の具体例を引きながら説明していく方がいいでしょう。
まずは『魔女の宅急便』から。
★1.作用と反作用~『魔女の宅急便』
キキが宅急便を引き受けて、荷物を持ち上げようとします。
意外と重くて全力で持ち上げます。
持ち上げるこのとき、
①荷物が重みで地面へ引っ張る力【作用】と
②それに逆らって上へ持ち上げるキキの力【反作用】
このふたつの力が拮抗しています。
これが【作用と反作用の・表現】なのです。
図にすると、こんな感じ。
キキは荷物の重さを量ろうと、計りへとふんばって持っていきます。
計りに乗せた瞬間、キキと荷物の【作用/反作用】の拮抗状態は解放されます。
観ている方も【作用と反作用の緊張状態】から解放され、ホッとします。
そうなのです。
【作用と反作用】はそんな難しい理屈ではありません。
何となく観ていても、実は皆さんもこの【作用・反作用】を感じ取りながら観ているのです。
もうひとつ『魔女の宅急便』から。
さきほどの重い荷物を届けに、階段をのぼっていくキキ。
重みの感じ、伝わりますか?
踊り場に荷物を置いて、【作用・反作用】からちょっと解放されるキキ。
この【重みの感じを伝える・作用/反作用】というのは、見方を変えれば、
【演技づけ】でもあるんですね。
この汗だくで息をつく『演技』もプラスして、【作用と反作用】の【重みの感じ】が観るひとに伝わってくるのです。
さて、ここで注意してもらいたいことがあります。
それは、
「作用・反作用って言うか、それ【重力】のことじゃん」
という指摘です。
そうです。
確かにいま掲げた『魔女の宅急便』の場合、『重力』と密接に関係して、【作用/反作用】が働きました。
しかしいつも『重力』=【上下の作用/反作用】ばかりではありません。
今度は『となりのトトロ』から、【横方向の作用/反作用】を見てみましょう。
★2.横の作用/反作用~『となりのトトロ』
『となりのトトロ』の序盤より。
新居にたどり着いたサツキ(とメイ)は喜び勇んで、テラスの柱をつかんで、ぐるりと一回転します。
すると、その柱は朽ちていて、横へぐらりと傾きます。
あわてて柱を立て直そうと、柱を押し返すサツキ。
このとき【作用と反作用の仕組み】が下図のように働いているんですね。
ちょっと押しすぎたので、反対側にまわってバランスをとろうとします。
どうでしょうか?
ジブリアニメにあって、【作用と反作用の仕組み】は、物体が下へと=重力で落ちる作用ばかりではないのが、おわかりいただけたでしょうか。
★3.非日常的な作用と反作用~『もののけ姫』
例をあえて、日常的な場面からひいてきましsた。
この日常的に働いている【作用と反作用の仕組み】は、非日常的なシーンでも応用されます。
『もののけ姫』より。
作品中盤のクライマックス。
タタラ場へ襲撃したサンが反撃にあい、倒れてしまう。
タタラ場のひとびとに襲われそうなサンを助けるために、アシカタカは屋根の横木を超常的な力でつかんで引きはがし、ひとびとの方へ投げつけます。
屋根にはりわたされた横木をつかむアシタカ。
手指が木にくいこみ、すごい力で握る力と木がめりこむ様子が【作用と反作用】として表現されています。
そして引きはがした木を投げる。
ここは重みを感じさせる動きが【演技としても】巧みに描かれています。
ジブリアニメは非日常的・超常的なシーンで大いに楽しませてくれますが、そのいちいちを紹介していく余裕がありません。
むしろ、この【作用と反作用の仕組み】を成り立たせる一番基本中の基本を見ておくことの方が大切だと思います。
アニメーションを成り立たせる一番基本的な【作用と反作用】。
それはどんなに優れたアニメーターでも、一番最初に学ぶことになる【作用と反作用】でもあります。
何だと思いますか?
それは『歩きの動作』のことです。
★4.一番基本の作用と反作用~歩きについて
アニメーションにあって一番基本的な動作は『歩き』です。
それはそうでしょう。
物語を始めるためには、
まずキャラクターが立ち上がり、
行動するためには、
歩かないと始まりませんから。
どんな優秀でベテランのアニメーターも、新人だったときがあったわけで、そのとき最初に覚えるのが『歩きの動作』なのです。
四の五の言わずに、具体例を見てみましょう。
『となりのトトロ』のオープニングから。
これがアニメーションの基本中の基本である『歩きの動作』です。
これはまた【作用と反作用の仕組み】の基本でもあります。
こんな感じで、いまメイちゃんは歩いています。
歩いている位置が違うのに、さっきと同じ絵が使われているのに気がつきましたか?
つまり「右足⇒左足(⇒右足・・・)」の2歩ぶんを1セットにして「位置だけずらして・繰り返し」で表現されているのです。
ついでにオープニングで歩くトトロの『歩き』も見ておきましょうか。
『歩き』の作用・反作用の仕組みも、かなり見えてきましたか?
この基本の応用編をふたたび『魔女の宅急便』から。
まだ都会での生活に慣れないキキが、街角ですれ違う都会の女の子にコンプレックスを感じながらすれ違う場面。
でもいま見るべきは、総勢4名が登場する、その足の運びの基本。
こういう何気ない場面の『歩き』すら、作画としておろそかにしないところが、ジブリアニメが一級品の品質を保てている理由でもあったりします。
さて、ここらで一度、稿をあらためないと、「長いよ!」とお𠮟りを受けるかもしれません。最後に応用編の【作用と反作用】をご紹介して、これで【前編】として終わりにしましょう。
★5.応用の作用と反作用~膨張感について(トトロ)
よく考えたら、具体例として『魔女の宅急便』と『となりのトトロ』しかあげてないですね。
そのうち他の作品にも話がいくでしょう。
ということなので、『ジブリてにをは・基礎講座その1』の【前編】を締めくくるにあたってもう一度『となりのトトロ』を例に引くのをお許しください。
作用と反作用の応用編です。
それは『膨張と収縮』の表現です。
いまアニメーションで膨張や収縮がよく使われているのがエフェクト=爆発のシーンですね。
ちょっとそちらに偏りすぎている。
ジブリアニメでは、もっと何気ない箇所で『膨張と収縮』を見せてくれます。
オープニングのこれですね。
小トトロの蒔いた種が芽を吹き、ふくれあがっては・ちぢみ、ふくれあがっては・ちぢみして、トトロの文字になっていく。
図解すればこうですね。
いままでの【作用と反作用】との違いを言えば、いままでは対象A(ひと、足)が対象B(もの、地面)とぶつかり・作用しあっていましたが、このトトロの種が芽吹くのは、物体そのものの内で「作用(膨張)と反作用(収縮)」が起きている、ということでしょう。
では、案外見過ごされていたであろう、『となりのトトロ』の最初の最初をいろどる見事な【作用と反作用】を確認して、『前編』の終わりとしましょう。
いかがでしたでしょうか?
だいぶ、【作用と反作用の仕組み】にも意識的になれてもらえたでしょうか。
★重み(荷物の重さ)
★傾く柱(横へ働く力)
★握力と投げる仕草(超人的)
★歩き(動きの基本)
★膨張と収縮(爆発、種の芽吹き)
こんな例をあげてご紹介してきました。
さて次は『中編』です。
後編ではジブリアニメで有名なあのシーンをご紹介しましょう。
あれです、あれ。
飛ぶシーンをご紹介します。
あれらのシーンも【作用と反作用の仕組み】にもとづいています。
言ってしまえば、ジブリアニメにあって、歩くシーンと飛ぶシーンは同じ仕組みで出来ています。
意外ですか?
それでは『中編』お進みください。
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