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芥川賞は『文藝春秋』で読むべし(前編)

1.芥川賞を『文藝春秋』で読むメリット

いつからだろう。
年に二回の芥川賞の発表があるたび、翌月に出る月刊誌『文藝春秋』を購入するようになった。

芥川賞が発表された、その翌月に出る『文藝春秋』には、受賞した小説がまるまる収録してある。

月刊誌『文藝春秋』の値段はいま1200円(税抜)。
ほぼ前後して出版される/ないし出版されていた受賞作の単行本を買うより安くつく。
しかし単行本なら、読んですぐに古本屋に売れば、単行本を買っておいた方がいいかもしれない。

ただ、2作品同時受賞というケースもある。
そうすると『文藝春秋』には2つの作品が両方ともまるまる収録されるのだ。
それでいて1200円(税抜)。
受賞作単行本を2冊買ったら3,000円以上はするだろう。
2作品受賞時の『文藝春秋』は、かなりお得である。
でもやはり、読み終わったらすぐ売り払うのが前提なら、単行本を買っておいた方がよいのかもしれない。

わたしは売り払う/売り払わないとは別の理由で、受賞作が掲載された号の『文藝春秋』を買う派である。

ほかにお買い得な理由があるからだ。
ああ、あのことだな、と勘づいているひともいることだろう。

そうなのだ。
『文藝春秋』には受賞作が掲載されるだけでなく、『受賞作が受賞したその理由を書いた選評』が掲載されている。
選考委員全員がひとり残らず書いているその『選評』が抜群に面白いのである。

わたしは受賞作を読むのを忘れたり、さぼったりしても、この選評だけは必ず読む。
それほど面白い。

あと『文藝春秋』がお買い得な理由としてもうひとつ、選評文と受賞作全文掲載のほかに、受賞者インタビューも掲載されている。
受賞者のひととなりや文学観が披露されていて、受賞作本文を読むにあたっての、いい指針にもなる。
もちろん単行本にはついていないインタビューである。

整理しよう。
売り払う前提でコストを大事にするなら、単行本。
純粋に『受賞作の・界隈』まで楽しみたいなら『文藝春秋』を買うのがおすすめである。

以下、章を変えて、選評を読む面白さを紹介してみよう。

2.『文藝春秋』芥川賞の選評を読む(序盤戦)

選評が選考委員全員分掲載されていると書いた。
現在9名の作家が選考委員だ。
紹介がてら、書き出してみよう。

1.山田詠美
2.島田雅彦
3.小川洋子
4.松浦寿輝
5.吉田修一
6.平野啓一郎
7.奥泉光
8.川上弘美
9.堀江敏幸

文学マニアからすると、なかなか壮観である。

この9人全員が、だいたい2000字前後の文章で「わたしは各作品をこう読み、こう選んだ」という趣旨の文章を寄せているのである。
いま雑誌のページを数えてみたら、10ページも費やされている。記事がひとつ出来てしまってもおかしくないボリュームだ。

これからこの文章で、選考委員9人それぞれの、個性豊かな(作家としても/選者としても)選評の特色を紹介してみようと思う。
その魅力が伝われば、今後『文藝春秋』で芥川賞を楽しむひとがひとりでも増えるかも知れない。

さてさて紹介が9人分か。けっこう長い記事になってしまいそうだ。
ひとによってはこの辺で「読むの、や~めた」と思って切り上げて、お帰りになった方がいいかも知れません。
わたしも、長丁場になりそうなので、ここで一服してから続きを書くとしましょう。

さて、それでも読んでみようと思ったひとだけが、今これを読んでいると思いますので、遠慮なく長い記事になってしまうのも厭わず書いていきますね。
ご勘弁を。

しかし、この9人分の選評を読み返すと。つくづく……
ニュースで大々的に報じられるほどに、受賞者が誇らしげに、「とったどー!(古い)」と言えるほど、『盤石の大勢』で受賞したわけではなかった、という内情が、選評を読めばわかるんですよね。

本当に、ほかの候補作と僅差の争いのなかで危うく勝ちとった、という感じですね。
結果がどう別の形で転んでいたかもわからない、危うい選考結果だったと、選評を全部読むとわかります。
選考委員の誰かがどう転んだかで、形勢ががらりと変わり、別のひとが受賞者になっていてもおかしくない、そういう『ここだけの話』も選評を読めばわかってしまいます。

選考委員たちは、「自分はこの作品を推さなかったが、結局これに決まった」ということを平気で書いてます。
ここまで赤裸々に告白してしまうのも、『作家』という奇特な商売をやっているもいる選者ならではな、『図抜けた・人間性』というのか、建前なしでズバリと本音が披露されていて痛快です。

この選評を読む『ポイント』というものを、一回つかめてしまえば、あとはもう、半年ごとの面白おかしいイベントになります。
特に、文学好きで、字を読むのが大好きという人間にとっては、最高のエンターテイメントでしょう。
いまどき、これほど人間臭い文章が9人分も密集して掲載されているのも、稀有なんじゃないかと思うほどです。

こんな個性豊かな選者たちが9人も集まって、候補作群のなかからひとつ、もしくはふたつの作品を受賞作として選ぶんですから、そこに人間ドラマというのか、人間文芸ドラマというのか、テレビのお笑いでは得られない最上の『娯楽』がこっそり・ひっそりと掲載されているのが『文藝春秋』だというわけです。

さて前口上はこれぐらいにして、9人ひとりひとりの選評が、どう独特か。この選者とあの選者は喧嘩にならなかったのか、そんなポイントをおさえつつ、ひとりひとり紹介していきましょう。
というところで、この記事の『前半戦』は締めくくって、読む皆さんにもひと休みしてもらうためにも、投稿をあらためて『後半戦』(=9人の選評の紹介)を書いていくとしましょう。

後半戦のリンクはこちらです。


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