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ジブリの烙印(東小金井村塾編、その12/最終回~悪戯な電話)

そう、ぼくにとって、この塾はここで終わったはずだった。

塾の終わり頃にかけて書き始めていた卒論は、わずか二週間程度の突貫工事で、間に合わせのように書き終えて、製本をあわててお願いして、年末になんとか研究室に提出し終えた。

春に就職活動をさわりだけやったが、その偽善的な売り込み合戦の様子に辟易して、ぼくは早くから就職戦線から離脱して、大学院の進学に志望を切り替えていた。
進学試験は二月である。
ぼくは年末も実家へ帰らず、大学図書館に通い詰めて毎日受験勉強をしていた。

年も開けて、年始気分も覚め、街もキャンパスも平常運転に返りつつあるその日のことだった。

ぼくは図書館での勉強を終え、近所の食堂で夕食を食べ終えて下宿へ戻ったところだった。
コートを脱いでハンガーにかけつつ電話を見るとボタンが点滅していて留守電が残っているのを告げていた。
ボタンを押すと、あのぶっきら棒な声が短くメッセージを告げた。

「あー、宮崎です。電話ください」

ぼくはあっけにとられた。
二度、メッセージを再生し直したがメッセージはこの簡潔なこのひと言だけだった。
事態が飲み込めるにつれ、この留守電はお宝ものだなと思いつつ、メッセージが告げる可能性をについては素直に喜べなかった。

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