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東小金井村塾@ジブリのこと

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ジブリで行われた東小金井村塾で起きたことをすべて書きました。 わたしはこの塾で宮崎駿に抜擢されジブリに入社した、いわば因縁の塾です。
面接、書類審査一切なし、顔パスでジブリに入社する方法。
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記事一覧

ジブリの烙印(東小金井村塾篇・その1~はじまり)

【ぼくがジブリに雇われるきっかけになった、ジブリ主宰の若手アニメ演出家養成塾『東小金井村塾』のことを書いていきます。】 【今回のあらすじ:ぼくは『東小金井村塾』への応募原稿を書いていた。それは自分の自主制作映画を撮影の最中のことだった。】 1~はじまり その運命的な八百字の応募原稿を、ぼくがどれほどの覚悟を秘めて書いたのか、今となっては不確かだ。 大学三年生の終わりの春休み、ぼくは青梅の宿泊施設付の研修センターにいた。 二段ベッドが並ぶ八人部屋の一室で、仲間たちがとうに

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ジブリの烙印(東小金井村塾篇・その2~面接)

【ぼくがジブリに雇われるきっかけになった、ジブリ主宰の若手アニメ演出家養成塾『東小金井村塾』のことを書いていきます。】 【今回は『村塾』の面接です。高畑勲監督と鈴木敏夫プロデューサーの登場です。】 1~スタジオへの道のり面接指定の日、ジブリのある東小金井駅を降りた。 ここにジブリがあるのかと意外なほど、鄙びた駅前だった。 面接案内に同封されていた地図に沿って、線路沿いを歩み進んでいくと、のどかな住宅地が続く。 その住宅も途切れると左手に畑地がひろがり、乾いた砂が風に運ば

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その3~塾のはじまり方)

【ぼくがジブリに雇われるきっかけになった、ジブリ主宰の若手アニメ演出家養成塾『東小金井村塾』のことを書いていく連載です。】 【今回は『東小金井村塾』の初回の様子です。高畑勲さん、面目躍如です。】 1~塾がはじまる月があらたまり、ぼくが大学四年生になった四月に、東小金井村塾は始まった。 毎週土曜日、ジブリのスタジオ内にある会議室で夕方から行わることになった。 面接試験ではじめてスタジオを訪れたとき、冷えびえするような気持ちで一段一段のぼっていた階段の、その踊り場にあった扉

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その4~討議!)

その日、会議室に現れた高畑さんは何かに怒っているなとわかる様子で、席に座らないまま、まずは持っていたビデオテープを、腰をかがめてデッキに差し込んだ。 テレビに映ったのはテレビドラマ『北の国から』の特番だった。 『北の国から』は北海道の大地へ移り住んだ家族の、どこか不器用な生き様を描いたものだ。兄と妹役を演じた子役が評判になり、連続ドラマとして終わった後も、何年かに一度は特番ドラマとして続編が作られ、子役たちはその成長する姿がそのままドラマの見どころにもなっていた。 いま塾

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その5~インターバル/教育実習編)

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その6~即興!)

その日、塾に行くとお題が出された。 「今日はちょっと即興で塾を進行させてみようと思います」 高畑さんは席に座ると楽しそうに切り出した。 「みなさんは一応アニメ演出家を志望している、ということになっています。日常からドラマを読み取ることにも人より敏感であっていいかと思います。 まあ、いきなりここで何か発見するのは無理でしょうから、そうですね、いままでの人生経験を振り返って、これはドラマになるな、と思える瞬間ぐらいは少し思い返せば、出てくるんではないでしょうか。 これをきっ

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その7~十五秒の夏休み)

★1 ぼくは塾が始まる前に東小金井駅の裏にあるモスバーガーへ足を運び、「勉強会」に出席する常連になっていた。 片岡さんの勉強会へのリクルート活動は続き、それからも二、三人、新たに参加する者もいた。 アニメ演出家志望者の集まりだけあって、話題はアニメのことばかりだった。 アニメにさほど詳しくないぼくは話についていけないことがしばしばあった。 しかしこれも勉強のうちだと思い、メンバーたちのアニメ談義に耳を傾けた。 あるとき『機動戦士ガンダム』と『アルプスの少女ハイジ』は、アニ

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その8~闖入者)

★1 スペシャルゲストが新たにやってくることになった。 今度はプロデューサーの鱸木さんだった。 漂々とした物腰でやってきて、講師席に陣取ると、座らずに立ったまま話を始めた。 面接のときの、高畑勲さんをうかがうような卑屈な感じが印象的だったので、塾生の前ではいたって闊達に、響きのよい声で喋っているのが別人のようだった。 鱸木さんが始めたのは映画にまつわるお金の話だった。 興行収入、配給収入、違いはなにか。 映画が興行して儲けたうち、映画製作会社の取り分はどれだけか。 細かな取

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その9~討議の果て)

塾のある日のこと、高畑さんはこう切り出した。 「いまゲームの業界が勢いがあるらしいですね。昔だったらアニメの方に来ただろう若い人材でゲームの業界を選んでいるひとが意外と多いと聞きます。 ロールプレイングゲームというのですか、なんかプレイし終えると人生をひとつ生きてみた感動があるそうですね。それ、ほんとですかね? テレビの中のちっちゃい人物に、自分を投影できるものなのですか?私にはちょっとよく分からないのですが、その辺り、業界通の久住さんはどう考えていますか」 「ええと、そ

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その10~”完璧”な作文)

その年は残暑がきびしかったが雨が断続的に降るようになるにつれ、色合いを変えるように秋らしくなってきた。 塾も残り三か月となった頃、久しぶりに課題が出された。 課題は、モノクロ映画時代に喜劇俳優・演出家として世界に名の聞こえたチャップリンがプロットのスケッチだけ残した文章を、塾で皆で読み合わせ、二週間後に完成形のシナリオとしてそれぞれ提出するというものだった。 与えられたプロットを読んでいくとおおよその筋としては以下のようなものだった。 スペイン内戦下ファシストの陣営に捕

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ジブリの烙印(東小金井村塾編その11~引き裂かれるアニメ)

十二月に入った。この塾も残りひと月となった。 高畑さんがまた、ビデオテープを持参して現れた。 「もう年も押し迫り、この塾も終わりに近づいてきましたね。 今日はみなさんに特別なプレゼントを用意しました。 まだ劇場未公開の出来たてホヤホヤの新作アニメをみんなで観ることにしましょう」 そう言って高畑さんはテープをデッキに挿し込んだ。 「まだ評価の定まっていない作品に接して、自分に何が言えるか、そういう自分の鑑識眼を試すことも必要だと思うのです」 作品が始まった。 父を事故

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ジブリの烙印(東小金井村塾編、その12/最終回~悪戯な電話)

そう、ぼくにとって、この塾はここで終わったはずだった。 塾の終わり頃にかけて書き始めていた卒論は、わずか二週間程度の突貫工事で、間に合わせのように書き終えて、製本をあわててお願いして、年末になんとか研究室に提出し終えた。 春に就職活動をさわりだけやったが、その偽善的な売り込み合戦の様子に辟易して、ぼくは早くから就職戦線から離脱して、大学院の進学に志望を切り替えていた。 進学試験は二月である。 ぼくは年末も実家へ帰らず、大学図書館に通い詰めて毎日受験勉強をしていた。 年も

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