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お仕事シリーズアンチおじさんが『駒田蒸留所へようこそ』に打ちのめされた話

 そもそもお仕事シリーズとは『終わり』の物語だった。

 『花咲くいろは』『SHIROBAKO』『サクラクエスト』『白い砂のアクアトープ』P.A.WORKSによる作品群。
 いわゆるお仕事シリーズである。

 今やP.A.WORKSの代名詞とも言うべきこのシリーズ。なんとなく「名作揃い!」みたいなニュアンスで語られることが多いイメージがある。
 しかし個人的には「SHIROBAKO以外はべつに」という評価だ。事実SHIROBAKO以降の作品で大きなムーブメントが起こったりアニメファンの注目を集めたといった話は聞かない。
 
 お仕事シリーズは『お仕事を頑張る人々を描く』物語であると同時に『終わっていくものと向き合う』物語であると個人的に解釈している。
 旅館然り、アニメ業界然り、過疎集落然り、水族館然り、『終わり』の気配が物語に陰を落としている。
 仕事を頑張るひたむきさを称えるお仕事賛歌である一方で「しかし現実は非情である」と言わんばかりに、旅館や水族館は閉まるし過疎が解消されることもない。主人公たちの頑張りが世間を動かしハッピーエンド! みたいな展開は基本的にない。

 どこまで意図しているのかは分からないが、そうしたシリーズに一貫して漂う「どうしようもないものはどうしようもない」といった空気感がどうにも肌に合わず、お仕事シリーズに対してはあまりいい印象を持っていなかった。
 世間的な評価もシリーズを追うごとに下がっている(というか話題に上がることそのものがなくなった)ように感じた。
 故に『駒田蒸留所へようこそ』の情報を知ったときの私の感想は実に冷ややかなものだった。

「もう『終わってる』お仕事シリーズをわざわざ映画にしてまで、まだそんなにしがみつきたいか」
 率直にそう思った。

 だから最初は観に行くつもりはなかった。そのうちどっかで配信されるだろうしそのときちょろっと観ればいいか。そんなふうに思っていた。
 けれでも公開からしばらくしてふと思い立った。アンチだからこそ、ちゃんと劇場へ行って、その目で確かめ、自分にとっての確信を得るべきなんじゃないか。

「ああ、やっぱりお仕事シリーズはもう駄目だ」と。

 あまりに不健全な動機でその日私は映画館へ足を運んだ。
 結果、鑑賞後の私はさめざめと涙を流しながら心の中でP.A.WORKSに平身低頭謝罪していた。ごめんなさい、私が間違ってました。

『駒田蒸留所へようこそ』は『再生』と『前進』の物語だった。

 舞台となるのは震災で甚大な被害を受けたウィスキー蒸留所。クラウドファンディングや新作ウィスキーで立て直しを図っているものの、建物には依然被害の爪痕は残り、経営状況は安定とは言い難く、買収の話も出る始末。御多分に漏れずこれでもかというくらい『終わり』の気配を匂わせている。

 しかし今回は少しばかり様子が違った。そのひとつが実質的な主人公である高橋光太郎の存在である。
 お仕事シリーズは大抵、最初こそ強制的であってもその後すぐに「これが私の仕事だ、やってやるぞ!」みたいなモチベーションのもとに行動する主人公が多かった。
 対して高橋は「仕事なんてべつに……」となんとも無気力な青年。齢25にして5つもの職を転々としているところからその性格やこれまでの人生がなんとなく伺い知れる。終わるどころかスタート地点に立ってもいないくらいの、現代に数多くいる社会の迷い人。

 そんな高橋がウェブライターの仕事として蒸留所を訪れるところから物語が始まるわけだが、てっきりこれまで同様に「蒸留所で働くことになった主人公の奮闘を描く!」みたいな話だと思っていた私(基本的に作品の事前情報は入れないタイプ)はこの男の存在に意表を突かれると同時に新鮮味を感じた。
 メインテーマであるお仕事を取材という形で一歩引いた地点から語る構図はこれまでのシリーズにはなかった。しかも本作が蒸留所のお仕事のお話であると同時に、高橋が自身の仕事と向き合う物語でもある『2つのお仕事物語』なのだと気付き思わず唸った。
 これまでとは一味違う見せ方にまんまと興味を引かれている自分がいた。

「駒田蒸留所へようこそ!」
 これはまさに私へ向けられた言葉だった。

 メインである蒸留所の物語もまた、私が観たいと思っていたものを観せてくれた。
 終盤にアレがアレして窮地に立たされるくだりは「いやベテラン職員がいるのにそれは杜撰すぎひん?」とか突っ込みどころはなくはなかったものの、それを取って余りあるくらいその後の展開には胸を打たれた。

 震災により生産終了を余儀なくされた、つまり『終わってしまった』思い出のウィスキー『KOMA』の復活。その目標に向けて邁進する彼らの姿に思わず「そうそうこれでいいんだよ」と後方腕組彼氏気分(実際最後列で観ていた)になってしまった。
『KOMA』の復活、そして『KOMA』の終わりとともに終わってしまった駒田家の再生。そこには「これが私の仕事だから」と誇りを持つ人々の意思があった。蒸留所の職員たちが「やりましょう!」と奮い立つ姿に『終わり』を撥ね除ける力強さを感じた。
「そうなってしまったものは仕方ない」というスタンスだったお仕事シリーズが「いいや、まだ終わっていない」と前進する意思を見せてくれたのだ。こんなに嬉しいことはない。 

 ウィスキーはいくつもの原酒をブレンドすることで造られるらしい。駒場蒸留所もまた、高橋という存在を加えることで物語に新たな深味を与えることに成功した。
 高橋というキャラについてもう少し語りたかったり仕事ってみんな結構なりゆきだったりするよねーとか色々書きたいところだけれど蛇足になりそうなので割愛。

 総じていい作品だったので、もしまだ観ていないアニメ好きの方がいれば要チェケラッチョ(激寒)

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