見出し画像

彼女の音を聴く 「リズと青い鳥」感想と解題その3

ピッチが合っていないふたりの主人公


「リズと青い鳥」にはふたりの主人公がいます。ひとりは鎧塚みぞれ(よろいづかみぞれ)、オーボエ担当の同じく高3です。もうひとりは傘木希美(かさきのぞみ)、フルート担当の高3です。

映画が始まって最初のソロパートの練習では、鼻がひん曲がるように聞こえるほど音合わせができていない「合奏のような何か」になっていました。私は最初観たときには気付かなかったのですが、その当時の耳がおかしいと思えるほどにズレているのです。

音だけではありません。ふたりの会話も的を射ていません。むずがゆいというか、もどかしいほどにふたりの会話は成り立っていません。互いに話を聴いているのかどうかもわからないような、不条理な会話が続きます。
原作には、ふたりのソロパートの掛け合いについて、小説(本編)主人公の黄前久美子の感想としてこのように描写されています。

みぞれの音だけを切り離して聞いてみれば、演奏そのものはかなりハイクオリティーに仕上がっていると思う。ただ、希美のソロと組み合わさった際に違和感を生じさせるだけで。要は、ふたりの演奏がちぐはぐで噛み合っていないだけなのだ。

武田綾乃著 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編P.84

彼女らの噛み合わない複雑な感情、Complexを解きほぐす決め手はあるのでしょうか。

闖入者

主人公ふたりは、彼女らだけの世界に住んでいるのではありません。
希美とみぞれには共通する友人がいます。吹奏楽部部長である吉川優子、副部長である中川夏紀です。
みぞれには1年生の後輩オーボエ奏者、剣崎梨々花がいます。
そして、外部からの指導者としてみぞれにアドバイスを送った新山聡美がいます。
彼女らとの関わりの中で、みぞれは少しずつ変わっていきます。それこそ、希美を置いてけぼりにする程度の勢いで。

中でもこの作品において重要な位置を占めているのが、梨々花です。彼女が出てくる場面の多くで特定のメロディーを持つ「doublelead, girls」と題された曲が流れるのですが、それを置いても彼女の持つ独特のリズム、テンポ、メロディーは、するりと、自然に、しかし確実にみぞれに近づいていきます。

そして彼女は、希美にみぞれのことを相談します。納得のいく答えを得られてはいないのでしょうが、お礼にとコンビニのゆで卵を希美にわたしていきます。このシーンは謎も多いのですが、いや、実際には何の意味も無いのかも知れませんが、非常に印象的です。
みぞれですら、彼女と話すときには緊張の糸が緩んでいるのを感じさせてくれます。

本日はこのあたりで。


この記事が参加している募集

よろしければサポートの方もよろしくお願い申し上げます。励みになります。活動費に充てさせていただきます。