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中国アリペイのNFT「敦煌」とは何だったのか?

中国の大手電子決済サービス「アリペイ(Alipay,支付宝)」が6月22日、自社サービスにおける仮想通貨の取引を禁止すると発表しましたが、翌日の6月23日にNFTを発売したとして、中国のブロックチェーン界隈では話題がもちきりになっています。

QRコードの着せ替えスキン

アリペイと敦煌美術研究所が共同制作し、世界文化遺産に指定されている敦煌莫高窟(とんこう・ばっこうくつ)の壁画「飛天」「鹿王」の2種類をモチーフにしたNFTが、アリペイ内のQRコード画面の着せ替えスキンとして発売されました。
それぞれ限定8000枚の発売で、価格は驚きの9.9元(約170円)。わずか8時間であっという間に完売となりました。1つのデザインにつき、1アカウント1枚限りの購入制限があったので、実に8000人~1万6000人が実際に購入したことになります。

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大手のマーケットプレイスで現在取引されているNFTの課題として、鑑賞以外の用途が見出しにくく、購入後の体験向上が今後必要になってくることが挙げられます。主に日本ではゲーム内の道具やキャラクター等に使用することが現在一つの解にはなっていますが、アリペイのNFTはその視覚的な魅力とQRコードという人々が日々使用するツールを結び付けて、NFTの用途という課題を克服しようとする姿勢が見られるといえるでしょう。

アリペイ内ではその後もアニメ作品とコラボした9.9元の激安NFTから、1000元(1万7000円)ほどの一般的な価格のNFT作品までさまざまなNFTが販売されています。ちなみに、アリペイNFTには著作権や商用利用権の譲渡は認められていません。

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アリペイ独自のチェーン

今回アリペイのNFT「敦煌」は「蚂蚁链(アリチェーン)」という独自のチェーン上で発行され、決済はアリペイ内で人民元で行われました。電子決済サービスのアカウントはそもそも法定通貨をスマホ上で保管する電子財布だともいえるので、今回はアリペイのアカウント自体が既に仮想通貨でいうウォレットとして機能したといえます。

一般ユーザーは購入するだけ

ところで、アリペイ上では多数のNFTが既に販売されていることが分かりましたが、NFT発行から購入、そして購入後の流れが他のNFTマーケットプレイスとは大きく異なる様相を呈しています。

まず、一般ユーザーはアリペイ上でNFTを出品・販売する機能は備わっていません。作品一覧にはさまざまなアーティストの名前が確認できますが、おそらく全てアリペイと契約を結んだうえで出品していると考えられます。Curated market(審査型マーケットプレイス)は既存のものではSuperRare、NFTStudio等存在し、ANIFTYも「公認絵師」という形で審査型マーケットプレイスの形式を採用予定ですが、アリペイではアーティストどのように公募するしているか、情報がまだ見つけられていません。

そして、重要なことですがアリペイには購入したNFTを転売する機能がまだありません。ただし、QRコードのスキン自体は他のアカウントに「譲渡」することが可能なのです。これが大波乱を引き起こしました……。

アプリ外で高額転売される「敦煌」

「譲渡」できるとは言ったよ?でも無料であげるとは言ってないじゃん?

いったい誰が最初に思いついたのか、それとも誰もが思いつくことなのか。
バイドゥ掲示板、QQチャット、アリペイと同じくアリババ系のフリマアプリ「闲鱼(読み:Xian Yu)」など、あらゆるウェブサービス上で個人同士による値段交渉、そしてアリペイ上での個人送金を経た実質上の転売がものすごい勢いで繰り広げられています。相場は1枚150元(約2000円)ほどですが、8000枚のNFTにはそれぞれトークンIDが0001~8000に振り分けられているので、最初と最後である0001と8000、そしてゾロ目の作品がさらに高額で転売されています。

特に、闲鱼では0001番と6666番が10万元(約170万円)で出品され、最終的に150万元(約2550万円)にまで値上がりしたところで運営に出品を取り下げられる事態にまで発展しました。

NFTの大きな特長として、転売が行われても作者にロイヤリティーが入ってくることが挙げられます。しかし、アリペイは転売を不可能にした代わりに「譲渡」を可能にしてしまった。その結果、作者(この場合は企業)にロイヤリティーが入ってこないどころか、ブロックチェーンに記入されない金銭のやりとりが発生してしまったのです。

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ブロックチェーンの価値とは

「敦煌」の一件は中国のANIFTYユーザーの間でも話題にのぼり、また同時期にTwitterのNFT無料配布事件があったこともあり、ANIFTYスタッフは改めてNFTの価値やブロックチェーンの価値について考えさせられました。

・NFT購入後にどのような体験を提供できるか?
・コインも通貨型トークンもないチェーンに価値はあるのか?
・NFTの正当な価格とは?

等、さまざまな問いを見出すことができます。
良くも悪くもアリペイのNFT発売は中国のネットユーザーに「NFTとは何か」と普及させる第一歩になりました。ただ、激安のNFTや、ブロックチェーン外で金銭のやり取りをしてウォレット同士ではトランスファーだけを済ませることにユーザーが慣れてしまうことは、今後中国のNFT市場の発展にとって障害となるか?あるいは、独自のカルチャーが界隈に形成されたまま市場規模は大きくなるのか?注意深く観察すべきだと思います。

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