見出し画像

F1小噺【ターボエンジン】

この記事では私が好きな「F1の小さな事柄」についてアレコレ語ります。
今回は「ターボエンジン」について、F1初心者に向けた記事です。なるべく専門用語や固有名詞を使用しないで頑張って解説してみましょ~!


ターボエンジン is 何?

ターボエンジンとは過給機と呼ばれる機械がついたエンジンの事です。たったそれだけ、なんですが、これをするとなかなかいい事が起きたんです。

エンジンは何をする人ぞ?

ここでは話を単純化するため最初はターボ(過給機)なしのエンジンでお話を進めます、難しい内部の機構やメカニズムには触れません。
エンジンは「ガソリンと空気を使って何かを得る箱」と思ってくださればいいです。F1でも乗用車でも殆ど同じ機構で動いてます

動力以外に排気ガスや熱、音も得ます。

で、もっと動力(馬力)が欲しいとき、どうしたら良いでしょうか?
簡単ですね、投入するガソリンを増やせばいいんです。ガソリンはエネルギー源、増やせばもちろん動力も増えますね。
でも、これだと頭打ちになるんですよね。これも想像できれば単純なんです、ガソリンは空気(酸素)が無いと燃えません。エンジンの容積(箱の大きさ)は有限、つまり空気はこの箱の大きさ以上に入りません。いっぱいガソリン入れても燃やす酸素が足りなくなるから頭打ちなんですね。
このエンジンに入る空気の量は排気量と呼ばれエンジンパワーに直結します。ガソリンではなく、空気の量と言う点がポイントです。

もっと馬力欲しい!

まぁ、実際は排気量が決まってもあの手この手で馬力をひねり出す方法があり、その一種としてターボはF1で採用されました。
小学生の頃に空気は圧縮できると習いましたよね?
そうなんです、例えば1.6Lの排気量のエンジンに1.25倍の空気(2.0L)を無理やり詰め込めば、性能は2.0Lの排気量と同じになるんです!(ナ、ナンダッテー!)

実際は「詰め込む」と言うよりは、1.25倍の大気圧環境でエンジンを動かしているイメージです。

この空気の圧縮をしてくれるのが過給機なんですが、機械なので動かすために動力を必要とします。
さぁ、動力をどこから取りましょう?近くでエンジンが回転しているのでそこから取ります?それともバッテリーの電気でモーター使う?
実際にエンジンの回転やモーター駆動の過給機もあります。でも、なんか勿体ないですよね、理想を言えば捨ててるエネルギーから動力を取りたいです。
おや?エンジンから排気ガスが出てますね。これを風車に当てたら、風車は回りますねぇ。うん、理想的な動力が確保できました。
嘘みたいな理論でしょ?ターボは排気ガスを動力源として動作してるんです。
さらに過給機は風車を回して空気を圧縮するので「排気ガス→風車→回転軸→風車→圧縮」という機構です。ここまで小学生の知識と想像力で実現できてます。この過給機はだいたい20cm立方程度のサイズです。

過給機の断面図。シャフトの両側に風車付いてます。(左: 吸気 右: 排気)
排気ガスを利用ってのが良いね

ターボ使うと何がいいの?

昔はエンジンパワーを求めてターボを使っていました。パワーが出るなら燃費なんて気にしない!とにかく馬力を!これはF1も乗用車も同じでした。
ところが時代は変わり、環境問題で車は二酸化炭素の排出量を減らす事を強いられます。そう、有限の燃料でより高効率なエンジンが求められるようになりました。という事で、現代のターボは、エネルギー効率の良さを求めて使用されています。
という事で、F1のターボエンジン、新旧で比較してみましょう!

Honda RA165E

左側にある丸いパーツがターボです(反対側にもあります)

1987年のF1エンジンです。馬力を絞り出すことをだけを念頭に開発されました。排気量は1500cc、過給圧は7.5バール、1000馬力超えという狂ったエンジンです。(予選限定で1500馬力という噂も)
まず1500ccなので乗用車のフィットと同じ大きさのエンジンです。フィットのエンジンは最大118馬力なんで、文字通り桁が違います
過給圧の7.5バールというのは1バールが大気圧なので、簡単に言うと7.5倍の空気(11,250cc)を詰め込んでいるいう事です。普通に考えれば、異常燃焼でエンジンが爆発、融解する状態なのは想像に難しくないと思います。
私がもっとも驚くのはコレ、1987年の出来事です。
Windows2.0、家庭用ゲームはファミコン、人気ゲームがアルカノイド、中森明菜が難破船リリースしてる時代なんですよ。
そんな化石のような電子機器の時代に、このスペック、F1技術者の本気のヤバさが伺えます。

Honda RBPTH002

右側の黒い箱はハイブリッド用のバッテリーです

現在(2024年)参戦しているレッドブルのエンジンです。詳細なスペックは公表されていないので、多少の噂が混じります。
排気量は1600cc、モーター出力は161馬力、トータル馬力は1000馬力越えの超効率なハイブリッドエンジンです。
37年前と比べて排気量が100cc上がっているのに馬力は据え置き?スペックダウンしていない?と思うかも知れませんが、大きく違う点は燃料制限がある点です。37年前と比較するとコレだけ前提条件が厳しくなっています。
・燃料の流量制限(1時間に100kgの燃焼しか使えない)
・燃料が市販のガソリン+エタノール(37年前はノッキング対策の専用燃料)
・ハイブリッド用の発電機へのエネルギー配分が必要
・1つのユニットで6レースほど走らなければいけない(37年前は予選の数ラップ耐えてくれれば壊れてもいい)
ターボ回りのレギュレーション自体が超高難易度な技術の塊である
他にもあるかもしれませんがめちゃくちゃ厳しい制限の下でエンジンが動いています。(噂では過給圧は2.5バール程度、11,000回転ぐらいで走行しているようです)

私個人の考えですが、現在のパワーユニットのレギュレーションと性能はオーバーテクノロジーです。下手すれば宇宙開発レベルじゃね?という機械に仕上がってるんですね。これじゃぁ新たなPUメーカーが参入なんてできるはずないです。(なので2026年おPUのレギュレーションは技術的に緩和されたものになります)

さいごに

この40年で時代と共に、ターボの扱い方が大きく変わっているのがお判りいただけたでしょうか?「ターボ = パワー + 低燃費」の時代は終わり、乗用車でも「ターボ = 高効率」の時代に突入しています。
2024年の乗用車のエンジンではエネルギー効率が45%と言われていますが、これはエンジンを発電機に見立てて「ガソリン→エンジン→発電機→電気→モーター」というちょっとルール違反気味の機構です。
対して、F1では2017年の時点で50%を超えたと言われています。(何せ機密が凄いので、最近の効率は公表してくれませんし、この値は2017年以前の数値だと思われます)
しかもこの50%超えって、前者のエネルギー効率最重視のエンジンではなく、レーシングエンジンなのが凄いですよね。
とは言え「F1のターボエンジンって言っても乗用車では使われない技術じゃん!」と言われれば確かにそう。ただし、最先端技術の果てには未来が待っているんです。
明るい未来が来ると良いですね!


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?