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話すと長い、F1の追い抜き事情 (その2)

F1初心者に向けた記事です。なるべく専門用語や固有名詞を使用しないで頑張って解説する記事です。
「なぜ現代F1ではコース上の追い抜きは困難なのか?」という事を解説します。前回の記事では追い抜きはストレートエンドで起こりやすく、F1では空気抵抗が大きいため、トーやDRSがとても有用であるという事について書きました。今回はそれでも追い抜きが難しい理由を掘り下げます。


見せてもらおう!DRSの力とやらを!

DRSを使うとストレートエンドでどれぐらいの速度差が出るのでしょうか?実際の速度グラフを見てみましょう。
2024年の日本GPに良い比較対象がありました。鈴鹿サーキットは抜きにくい事で有名です。追い抜きポイントはセオリー通り、メインストレートから第1コーナーの入口です。
X軸である『Distance(m)』は走行距離(鈴鹿は1周5.8km)、『Speed(km/h)』はマシンの時速、『Delta(s)』は2台のマシンのタイム差、『DRS』は使用しているか否かを表しています。

2024年日本GP28周目

オレンジがDRSを使って第1コーナー(500m付近)で追い抜きを成功させた例です。この時はタイヤ戦略に違いがあり、オレンジは新品のタイヤを履いた直後で水色は7周使ったタイヤだったので、追い抜けたんですね。その後のタイム差(Delta)がどんどん広がってます。
続いて、タイヤコンディションが全く同じ2台で比較しましょう。緑のマシンがDRSを使っても白のマシンを追い抜けないグラフです。

2024年日本GP35周目

成功例に比べてメインストレート(500m付近)の速度差とタイム差が少ないのがわかると思います。差が十分ではないので追い抜きには至っていません
さらにタイム差(Delta)グラフの右の方を見てください、殆どゼロです。1周走って全く差が縮まってないんです。(抜けずに後ろで詰まってるとも言えます)
これこそ抜けないF1を象徴した典型的な例で、この二人はファイナルラップまでこんな調子で走り続け、緑のマシンは結局追い抜けませんでした。

なんで差が縮まらないのか?

グラフの後半に注目しましょう。ここは途中に中速コーナーを挟みますが、高速コーナーから西ストレートのアクセル全開区間で、モロにトーが効く場所です。

2024年日本GP35周目

どうでしょう?速度とタイム差が全く同じですよね。背走している緑のマシンがトーの恩恵を受けているように見えません。
でも、実はトーは使えてるんです。
白のチームはマシンの設計で空気抵抗が少ない特性をもっているので、ストレートが速いんですね。つまり、緑のマシンはトーを使ってやっと白と同じ速度なんです。これじゃあ、前に出られません。

やはりDRSやトーは万能ではない

空気抵抗が少ないマシンが前を走ると途端に抜けなくなる」という事ですが、これが与える影響って後ろの1台だけじゃないんですよね。例えば、上の白vs緑の後ろに別のマシンが居たとしても、トーの影響が連鎖することによって後続のマシン全てが追い抜き困難な状況になってしまいます。
これはトーに限ったことではなく、DRSでも同じように抜けない隊列がゾロゾロとできていきます。DRSを使って追いかけている前のマシンがDRSを使っている、そりゃ差は縮まりませんね。
こういう現象は「トレイン状態」「DRSトレイン」と揶揄されます。
F1で追い抜くには、DRSだけでは役不足なんです。タイヤや状況判断で総合力で抜いていくしかないんです。

つーか、空気抵抗少ないマシン、無敵やん…!

そうですね。今回みたいな状況では割と無敵感あります。
でも、空気抵抗が少ないマシンには代償があるんです。空気抵抗はダウンフォース(専門用語)と密接に関わっており、それこそがF1マシンを世界最速にしている魔の領域なんです。
という訳で、今回は空気抵抗を巧みに利用したDRSとトーでも、追い抜くことは難しいというのを説明してみました。次回はダウンフォースにまつわる話を解説してみたいと思います。(な、なげぇ…)

【余談】
空気抵抗を削減するために、F1チームは色んなパーツを用意しています。みてて解かりやすいのはリアウィングですね。
コーナーが少なく長い直線が多いサーキットでは空気抵抗を減らすためにペラペラのリアウィングを搭載します。軽いリアウィングと呼ばれます。
逆に重いリアウィングはモナコやシンガポールなど長い直線がないサーキットで使われます。

ペッタンコのウィング(高速サーキット用)
迫り立つウィング(低速サーキット用)



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