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ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術 ミニマル/コンセプチュアル・アート @兵庫県立美術館

初めに


会期残りわずかで行ってきました。
ドイツデュッセルドルフ ノルトライン=ヴェルトファーレン州立美術館(1961年設立)中心の展示。
展覧会タイトルにあるよう個人コレクションが元になっている美術館だそう。
今回のフィッシャー夫妻は、当時の新しいアートを紹介したドイツのギャラリスト。
コンラート・フィッシャーはゲルハルト・リヒターと共に学んだ後、ギャラリストに転向した人。
2018年の映画ゲルハルト・リヒターの「ある画家の数奇なる運命」でも出てきてました。まあまあ嫌な感じだったけどそういえばお金持ちでしたね。ギャラリーするのお金入りますよね。(面積広そうだし)
今回の展覧会、何がいいって実際に企画内容やアーティストとのやりとりの手紙や当時のギャラリーでの写真など展示されていて興味深いものがありました。

ミニマル/コンセプチュアルアートって?


ミニマル・アートは極限までに単純な形にしたアート、まるで工業製品みたいに見えるかもしれないような作品で、有名なのはドナルド・ジャットです。
コンセプチュアル・アートはさらにミニマル・アートを推し進め、アイデアやコンセプトを作品の中心的な構成要素とした動向のことです。
日本人で有名で今回も出展されています。フィッシャーさんのギャラリーでも展覧会をした河原温(かわらおん)さん。

現代アート好きですか?


ところで、アートっていいよねって言いながらも現代アートはちょっとっていう人が多いんじゃないかと思ったりします。実際に展覧会後期にもかかわらず、人は少なかったです。
何を表しているか、例えば、花とか犬とかわかるもの、または綺麗だと思える色彩なら見たいと思うけれど、パッと見、何を表しているかわからない、単なる箱とか線とかだと受けないですね。
フェルメール展は混んでるけど現代アート展はガラガラってことになります。

確か、学生の頃にこれが今まさに作られている現代アートだって講義で見せられたのはクリストの梱包する作品。パリの凱旋門を布で梱包したのは有名かな?
フィッシャーやリヒターの師匠、パフォーマンスアート、フルクサスの活動をしたヨーゼフ・ボイスも流行っていました。

その後、現代アートギャラリーに勤めても密かになんじゃこれっていちいち思ってました。よくわからんしって。
よくわからないなりに作家さんの担当をして話を聞くわけですね。そうすると作品の背景が見えてくる。
時代背景、文化的背景も調べることをすると作品の成り立ちが見えてきて面白くなってくるんですね。
わからないけどなんだろう、不思議、どうしてこんなの作ろうって思ったのかな?なんて興味からみるものありですね。
コンセプチュアル・アートはそのプロセスが見られるの現代アートはちょっとの人にとっつきやすいかもしれません。
今回の展示では、作品、展示に関してもやりとりが多く展示されていたので楽しんできました。
チャンスがあれば、ぜひ足をお運びくださいね。

展示会内容

作品リストはこちら

https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2203/M_C_List.pdf

1 工業材料と市販製品
カール・アンドレ
ダン・フレイヴィン

ミニマルの最小限という意味通り、作家の個性をできるだけ排除。
幾何学を拠り所に制作されました。
カール・アンドレとダン・フレイヴィンは特にミニマルを徹底。
自分の手で作成さえしなかったそう。工業製品化と思うような作品です。
ダン・フレインの「無題(タトリンのためのモニュメント)」(東京都現代美術館蔵)は蛍光管を展示されているだけ。タトリンの「第三インターナショナルのモニュメント」を想起させる崇高さは感じられますが、知らない人にとってはこれがアートなのかと思うかもしれません。

2 規則と連続性
ソル・ルウィット
ベルント&ヒラ・べッヒャー

コンセプチュアル・アートとはこういうものみたいな作品群
ソル・ルウィットが1967年「コンセプチュアル・アートに関する断章」でどういうものがコンセプチュアル・アートなのかを下記のように述べている。
「すべての計画や決定は事前に行われ、実際の製作は取るに足らない事柄となる」
コンセプトが大切なんですね。
ルウィットは作品を仕組みを数列や文字で製作指示書を作り、それを見て技術者が製作し、細かい部分は特に指示なしというのを見て、頭の中でアートなのかってここでも突っ込んでいました。

3 「絵画」の探求
ロバート・ライマン
ゲルハルト・リヒター
ブリンキー・パレルモ
「絵画の終焉」19世紀初、写真の発明で言われ続けた言葉。
それに対し「絵画」を模索した3人の展示
ライマンは正方形に白メインに作品を制作。
リヒターは写真と絵画をはじめとして多くの形式で制作。
2018年の映画「画家の数奇な運命」で作家としての初めの模索を見ることができます。フィッシャーも登場。
バレルモは既製品の布を貼り合わせるような〈布絵画〉を確立。色と形の表し方に特徴があります。

4 数と時間
ハンネ・ダルボーフェン
河原 温
ルウィットは指示書が数列でしたが、ここでは数そのものが作品としています。
ハンネ・ダルボーフェンは数が溢れている。どれだけの時間を数を書くことに費やしたのかと思ってしまう。観た人には意味がわかるでしょう。
河原温の作品を初めて観た時に頭をかしげたが、同時にこれは面白いアイデアだと衝撃的だったのを覚えています。
今回の展示では、その日滞在していた都市の観光絵葉書にゴム印でその日の起床時間を押してフィッシャーに送ったもの。
誰でも買える絵葉書とゴム印。特別なことは何もないものが、ある期間送り続けられることで作品となる不思議。
ツイッターでも毎日”I AM STILL ALIVE”と呟いていました。
亡くなられた後も続いていて(今はツイートは停止、アカウントは2022年現在存在)本人が本当に生きているかどうかはわからないということも考えさせられる作品となりました。遺作とも言えるかもしれませんね。

5 場への介入
ダニエル・ビュレン
リチャード・アートシュワーガー
今や場は重要ですが、まさにその初めの頃の作品。
ダニエル・ビュレンはGINZA SIXにも展示されて話題になっていましたが、ストライプが印象的。フィッシャー・ギャラリーでの企画はギャラリー内だけでなくデュッセルドルフの街中に日替わりで作品を展示したんだそう。
ストライプを街中に貼っていたそうで、当時の写真を見ると正直なところ作品か宣伝か街の装飾かわからないものが多いです。
リチャード・アートシュワーガーの作品もギャラリーのあちこちに展示。
単体は単なる楕円の物体が壁面にかけてあるだけで、これが作品?と探すような面白い展示だったのではないかと想像しました。(展示自体は面白味はなかったのですが)

6 枠組みへの問いかけ
マルセル・ブロータース
ローター・バウムガルテン

ベトナム戦争、パリ5月革命、ヒッピー、ロックの台頭の頃
社会の枠組みへの反抗はアートシーンでも。
決まったことを嫌い、新しい試みがなされていた時代でした。
マルセル・ブロータースの「ミュージアム」(シルクスクリーン1972年)はマルセル・デュシャンを思い出すような権威への反抗を形にした面白い作品。
ローター・バウムガルテンはカラスの羽、蛙、蛇などの自然モチーフ、先住民の祭事をイメージをさせるような不思議な作品。調べたら民族誌博物館が収集物の展示方法を通じて鑑賞者の知覚をどのように構成しているかについて、体系的な写真研究を行っていたんですね。そこからインスピレーションを得たのかもしれませんね。

7 歩くこと
リチャード・ロング
スタンリー・ブラウン

タイトル通り、歩くことで有名な2人。
それで名前だけ覚えましたが、展示を見たら意外に面白かったんです。
リチャード・ロングは自ら山や川辺を歩き地面についた足跡、そこにあった石や木の枝を円に並べるなど、実際に歩き写真に残すことで作品とした。
一方、スタンリー・ブラウン歩幅や道ゆく人に書いてもらった地図などを作品とする。歩くことという共通テーマでもブラウンは写真や文章という形ではない思考的な作品でした。しっかり見たのは初めてで捉えた方、表現の仕方の多様性に触れ、新鮮でした。
ここでまた、技術がない自分でもできるのでは?とアートとはなんぞやという疑問が湧いた瞬間でした。発想も創造力ですね。

8 知覚
ヤン・ディベッツ
ブルース・ナウマン
ヤン・ディベッツはオランダの作家で写真を使った作品。
〈知覚〉の作家と言われることしか知らなかったのですが、移り変わる時間経過の中で撮影したものをパノラマ的にひと続きにし、抽象的に見えるものを〈知覚〉させている。よく知らなかったので、展覧会カタログでそうだったのかと今さら確認。
ブルース・ナウマンはインスタレーションで異質な空間を作り出す作家。
インスタレーションはその時に体験して楽しみたいので資料だけだと想像しにくいかもしれません。
9芸術と日常での彼の住んでいた部屋をずっと撮り続けるというビデオ作品も印象的でした。

9 芸術と日常
ブルース・ナウマン
ギルバート&ジョージ

ギルバート&ジョージは学生時代に面白いとかなり話題になった2人。
体を使うショーが楽しい。「生きる彫刻」と呼ばれています。
学生時代からの活動の記録も展示されていました。

最後に


おぎゃあと生まれた60、70年代がもう昔ってなってしまっているのに衝撃を受けつつ帰宅したギータでした。何年経っても新鮮であるけれど、作品への理解は変わるもの。全く理解不可能と思ったミニマル・アート、コンセプチュアル・アートをこれほど楽しめる日が来るとは、年も取るのもいいものです。

展覧会案内



兵庫県立美術館
ドロテ&コンラート・フィッシャーと1969−70年代美術
ミニマル/コンセプリュアル
2022年3月26日ー5月29日

サクッと音声配信で聞く






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