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#16 私と母の戦闘日記

私は迷っていた。

本当に辞退していいのかどうか。ずっとずっと。悩んでも答えは出ないと分かっていても。

母はずっと、内定辞退をしてくださいと、伝えて来ていた。

これ以上の母の暴走を止めるために、そして何より自分がこのストレスから解放されるには、辞退をすることが最良な選択であると分かっていた。しかし、私は自分なりに就活をし、必死に掴んだ内定をそんな簡単に手放すことは出来なかった。

辞退をすることで、今の自分を守ることが出来る。

ただし、一生後悔し続け、トラウマのように母が、家族が、私の中に居座り続ける。

辞退せず、母と戦い続けることで、未来の自分を守ることができる。

ただし、今を耐えなければならない。

その2つの選択肢を決める決断はいつもいつも苦しい選択として、私の頭の中を占めていた。

(辞退すれば、楽になれる・・・)

分かっていたのだ、ずっと。それほどこの毎日は辛く、精神を消耗する日々だった。


悩んだ挙句、私は辞退しないことにしたのだ。


母は、◯日までに辞退を伝えなさいと、言って来ていた。そして、その次の日、会社に辞退の連絡をしたのかを聞いてきた。

私は、母にまた、二度目の嘘をついた。

会社に連絡したと伝えると、母は返事をしてきた。

『ありがとうございます。再就活か院に残るかは、あなたの意見を尊重します。ただ相談はしてください。◯◯という企業の採用ページを見たらまだエントリー出来るようですが・・・』

そんな話が続いた。私は、また嘘をついたという罪悪感と、また言われる、という恐怖が襲ってきた。しかし、伝えなければ。そう思い、次の日、連絡したのだった。

「会社に電話した件ですが、内定辞退は伝えていません。いつも、電話では辞退しようと思いますが、実際に伝えるとそれが自分のためであるとは、思えませんでした。

自分の目で見て、この会社でなら働いていけると自分で思えたから、内定を辞退することは容易ではありません。

ラインで伝えることになり、申し訳ありません。」

そして、2日後に連絡が来た。

『明日1泊で行くので泊めてもらえませんか?話し合い、明後日観光に行きましょう。私もリフレッシュが必要です。』

私には、意味が分からなかった。この雰囲気だと、友好的な歩み寄りが出来るのかもしれないと思ってしまった。

こんなことを思った私は、馬鹿であると思い知ることになる。

次の日の夜、母は一人暮らしの私の家にやってきた。私は出来る限り、普通に接した。

『座って。話し合ってから、ご飯食べましょう。』

そうやって話は始まった。

内定を辞退し、院に進むか、再就職するのであれば実家に帰って来なさいと、夜中まで言われ続けた。

私は、絶対に辞退しません、と言い張った。

そうすると、

辞退しないのであれば、明日実家に連れて帰ります。そして、ずっと実家にいてもらいます。

私はそれでも抜け出してやろうと考えていた。だから、こう告げたのだ。

「そうですか。ご自由にどうぞ。でも、私は絶対あの会社に入社します。

『だから、無理だと言っているでしょう!絶対に、内定式にも入社式にも行かせません!

「だから、ご自由にどうぞ。もういいですか?話、これで終わりましたよね?」

私はそういって、実家に帰る準備を始めた。

『せっかく買って来たんだからご飯食べましょう。』

そういって、テーブルに並べ出す母親。

そんな状況でお腹なんて空いていなかったが、買って来てもらったのだし、食べるか、と思い向き合って食べ始めた。

母に至っては、お酒を飲み始めた。ペラペラと自分のことを話していたが、私は適当に流していた。そしていきなり、こんなことを言って来たのだ。



残念ね、今日がここでの最後の晩餐なんて。



なんて酷い言葉だろうと思った。残酷なほど、的確な言葉は、私を傷つける。

私は、今までこの家で、このテーブルで食べたご飯を、一緒にご飯を食べ、笑い話し合った仲間との思い出が一気に走馬灯のように頭のなかを駆け巡る。

(ああ・・・、幸せだったな。)

涙を流しながら、必死に食べ物を押し込んだ。

「・・・ほんとだね、美味しいねー。へー、そうなんだ。・・・」

何も美味しいなんて感じないけれど。悪魔のような、いや、ただの悪魔の母親は、私の前に座り、お酒を飲み食事をしながら、大手の航空会社にCAとして内定をもらった知り合いの女の子の話をしている。挙げ句の果てには、その話で私に失望したわ、なんて言いながら。

中学生の頃にも思ったのだが、この人は本当に母親なのだろうか、と思う時がある。

ただの悪魔との食事は、涙で埋め尽くされて終わった。

母は普通に過ごし、布団で寝た。

私は、母を見たくなくて母の寝ている場所から一番遠い、玄関の近くで片付けをしながらうずくまって寝た。


こんなに絶望していた時間は、久しぶりのように思えた。

常に、涙は止まらなかった。

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