大好きだったあの人③



「いえ、アタシは昔からオールディーズが好きで、ソウルやブルースは良く聞くし、ジャズも好きなので、そこまでつまらなくはないですよ。さっきから少しだけだけど知ってる曲も歌われてますし」

そう、アタシは伯母の家で古いレコードをよく聞いていた。
オールディーズはホント大好きだった。


「以外だね、音楽好きなの?」

「そこまで詳しくはありませんが、伯母の影響で古いレコードを聴くのが好きなんですよ。
残念ながら伯母のオーディオはSさんの会社製ではなくて、LUXMANのプリメインアンプなんですが…」

「伯母さんカッコいいねぇ、LUXMANだなんてセンス良いよ」



お料理も美味しかった。
シャンソンもアタシが思ってるより難しくはなかった。
心配したテーブルマナーも全然大丈夫だった。
貴婦人達との会話も楽しかった。
多分、ホステスの外営業としても大成功だったはず。
彼は終始ニコニコしてた。

でも欲を言えば、彼ともう少しおしゃべりしたかった。
ナニしろディナーショー、歌を聴かなきゃいけない、ご飯食べなきゃいけない、色々忙しすぎる。

「aneちゃん、さっきのテーブルのご婦人方がね、アナタのコト大絶賛してらしたヨ。
『素敵な部下の方をお持ちですのね』ですって。
アナタ、僕の部下にされてましたヨ」
帰りのロビーで彼はクスクス笑ってる。

「お褒めいただき何よりデス」

「楽しんでたみたいで良かった」

「ハイ、シャンソン、良かったデス!」

「僕はアナタと話し足りないけどな…
ねえ、来週の土曜日はお店お休みでしょう?」

「はい、お休みデス」

「ここのホテル、日本食も美味しいんだけど、一緒に夕食でもどう?」

アタシはドキドキと心が踊った!
コレってもしかしてもしかしなくてもプライベートデートのお誘いでは⁈
アタシは二つ返事で
「はい!是非!」
と答えていた。




アタシは先週と同じように、ニットアンサンブルとウールの膝丈スカートにブーツを合わせたお昼間仕様でデートに臨む。

やはり香水はCHANELアリュール。

アタシは夜の仕事にはCHANELのNo.5を使っていた。
アタシにとっての色気の象徴、憧れのマリリン・モンローが愛した5番。

でも、昼間は爽やかなフローラルノートのアリュールを愛用していた。

allure。
誘惑や魅惑、誘うや引き付けるなどの意味合いを持つフランス語。

身につける人によって香りは変わるというコンセプトが大好きで、アタシは発売されるやいなや飛び付いた。

今でもこの香水を愛用している。

もっとも食品を取り扱う仕事柄、香りは御法度なのでお出掛けの時にしか使わないケド。


ホテルのロビーに着くと彼は先に来て待っていた。

「遅くなってごめんなさい」

「いえいえ、僕が早すぎたんですヨ。
ちょっとはしゃぎ過ぎかな」

アタシはニンマリ笑顔がダダ漏れる。

可愛い、この人、可愛すぎる!

29歳も年上の人に可愛いだなんて形容、どうかしてるケド、アタシの目にはとても可愛い人に映ってたんだ。

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