大好きだったあの人vol.13




彼と会うのは楽しかったが、彼を愛おしいと思えば思うほど、アタシは彼に嘘をついているコトが苦しかった。

「アタシは彼を裏切っている。
アタシは彼を騙して、別のオトコと関係を持っている」

彼がアタシを大事にしてくれればくれるほど辛かった。

アタシは醜い人間だ

アタシは腐った人間だ

こんなに大事にしてくれる人を騙して、他のオトコに身を委ねてる。

人間のクズだ

自分のコトを汚れきった最低な人間だと思っていた。


付き合い始めて4ヶ月ぐらい経った頃、彼がアタシの両親に挨拶がしたいと言い出した。

アタシの父はアタシを溺愛している。

これまでの彼氏達も父に会いたいと言うから会わせたが、どいつもコイツも父は嫌って、誰一人として認めるコトはなかった。

「ねえ、両親に挨拶だなんてもしかしてアタシと結婚でも考えてるの?」

「いや、今すぐどうこうと言うワケじゃないんだけどネ」

「それなら会わなくていいよ。挨拶なんかしなくていい」

「でもね、ane、良い年こいたオッサンがまだまだ若いアナタの時間を独占してるでしょう?
アナタのコトを大切に育てたご両親に対してちゃんとご挨拶をするのが礼儀だと思うんだ。
それに、いざとなったら責任を取る覚悟はできてるからネ」

いざ?
どんな「いざ」?
アタシが妊娠でもした時ってコトだろうか…


彼の熱に負けて渋々両親との面会を承諾した。

どこかからの帰りにアタシの自宅まで彼に送ってもらって、その折に両親に会ってもらおう、と。


日曜日の夕方だったと思う。

アタシは庭先まで両親に出てもらった。
なぜか九つ年下の妹も庭に出て来てたみたい。

「どうも初めまして、aneさんとお付き合いさせていただいてますSと申します。
こんなに遅い時間まで連れ回して申し訳ありません」

こんな時間といっても夕方の5時…

両親はこれでもかってぐらい驚いた顔をしていた、と言う。

実はアタシはこの時のコトをよく覚えていなかった。

見知らぬオッサンとどっかから帰ってきた姉ちゃん

見る見る怒りの表情があらわになる父ちゃん

ただただオロオロする母ちゃん

中2だった妹がセンセーショナルすぎる光景を鮮明に覚えていた。

4人のオトナがガン首揃えたあのオソロシイ光景は24年経っても忘れられるもんか、と。

ただ、彼が帰ったあと、父が激昂するコトだけはアタシも覚えていた。

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