大好きだったあの人vol.14



彼が帰った後、アタシは父の部屋で正座させられた。

父は我が子を叱る時は必ず自分の目の前に子どもたちを正座させた。

「ane、これはどういう事や」

父の声は怒りに震えていた。
かなり怒ってるナ、とわかった。

「これ?とは?」

「あのオトコは一体何者や?」

「あの方は○○の方で、○○の子会社の支社長。
東京から出向して来てる」

「ほんでアイツはなんぼやねん」

「なんぼ?」

「年や、何歳やねん」

「52歳」

「ワレは何を考えとんのや‼︎」

とうとう父が怒鳴り声を上げる。

実は父から怒鳴られたのは後にも先にもあの時だけだ。
アタシは生まれて初めて父に怒鳴られるコトになった。

アタシはピンとくる。

あー、なるほどネ、そういうコトね

父ちゃんが歴代のカレシ達と比べて、嫌がるとかそういうレベルではなく、明らかに激昂してるのは、彼の年齢がアカンかったってコトか。

「まさか妻子持ちとちゃうやろな」

「まさか!お子さんはいてはるケド、だいぶ前に離婚しはって今は独身や!」

「ワシより年上て、ワレ、ホンマ、なんやねん!
金か⁈天下の○○の重役やし、ランクルやし、結局ワレ、金欲しいんか⁈」

「父さん!なんちゅうコト言うねん⁈
彼は重役ではないし、乗ってる車は関係ないでしょう⁈」

父が普段なら絶対に言わないだろうコトを言って彼との交際を罵っているのに驚いた。

「うるさい!絶対に許さんゾ‼︎
ane、ワシゃ、絶対に許さんからナ‼︎」

父はアタシに怒っているのではない、彼に怒ってるんだ、アタシはそう思った。

「あのオトコは何を考えとんのや!
自分の娘でもおかしゅうないような年端のいかん小娘のオマエを誑かして。
オトコとして最低やないか‼︎」

黙ったままのアタシに「別れろ」と父は言い放った。

「父さん、父さんが気に入らないのが年齢の事だけなんなら、アタシは年の差なんか気になんないから、父さんの言う事は聞けません」

そう言うアタシに父は今にも殴りかからんばかりに腰を浮かした。

振り上げ握り締めた拳をプルプルと震えさせている。
娘に手を上げるのは良くない、その理性だけが父を踏みとどまらせているのだろう。

アタシは逃げもせず、父を睨みつけた。

「父さん、アタシが本気で好きになって一緒にいてるの。アタシが選んだ人なの。
父さんに認めてもらえなくても、別れるつもりは一切ありません」

まだ何かを叫んでる父を無視してアタシは部屋を出た。

これ以上何を話しても時間の無駄だ。


父はショックだったのだろう。

蝶よ花よと育てた愛娘が自分よりも年上のオトコを連れてくるなんて、どこの男親が想像できるだろう。

そして、その連れてきたオトコが自分よりももしかしたらスペック高いヤツかもしれない、だなんて。

アタシは父をとても尊敬していたし、父もそれをわかっていた。
溺愛する娘がオトナの男像として自分に憧れを抱いている、そう信じてきた父にとってはソレは認めたくないコトだったはずだ。

父のプライドをへし折ったのだろう、アタシが彼を選んだコトは。

だから、金だの、乗ってるクルマのランクだのを理由にしてアタシの選択をバカにしたのだろう。

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